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会社を辞めることにした。大阪の父親の病気がかんばしくなく、月に三度も四度も新幹線で様子を見に行くのが不可能になってきたためだ。
退職届を出したところ、少しだけ慰留はあったが、すんなり認められ、引継ぎなどを考慮して退社の運びとなった。
なので赤澤慎吾は、この秋、東京を去り、再就職先を探しながら大阪の実家で暮らすことになる。その旨を報告するため、土曜にオグを呼び出して喫茶店に入った。
「…というわけで、これからは遠距離恋愛になるんやけど」「え……」
 

絶句したまま、しばらく沈黙がつづいた。
「父親のことやからしょうがないねん」
「そうですけど、急ですね…」
事前に相談しろとでも言いたいのか。相談したところでどうこうなるもんじゃないのだが。今でもオグと会うのは月に二回ぐらいなので、それが仮に一回に減ったところで、あまり変わりないだろう。しかしオグは言う。
「自信がないんですけど」
「自信?」「はい、遠距離でやっていく自信がないです」
たとえば1年後でも2年後でも、結婚するとか、あるいは大阪に呼び寄せて同棲するとか、そういう約束でもあるならばなんとかなるかもしれないが、無期限で遠距離恋愛と言われてもやっていく自信はないらしい。
わからなくはない。オグも30前半。下手に歳を食えば取り返しのつかないことになる。
結婚か…。ずっとモテなかった男が言うのもなんだが、はたしてオグと結婚するのが正解なのかどうか。オレにとっての長澤まさみは、この子なのだろうか?
これまでは二人の間で、結婚についての話題にはあえて触れずに過ごしてきたが、もう避けては通れないようだ。それにしてもオグは、このオレと結婚してもいいと思っているんだろうか。
「結婚したいと思ってくれてんの?」
「赤澤さんはどうですか?」

「そりゃ、思ってなくはないけど」
歯切れの悪い返事に、オグの表情が曇る。2人は無言になった。ややあって、オグが泣きそうな顔で口を開いた。
「結婚の話が出たので、ちょっと言っておきたいんですが…」
「ああ、うん、どうぞ」
「ずっと黙ってたんですけど」
「ん?」
「親のことなんですが…」
親のこと? 東北に住んでるとかいう親か。いったい何を隠していたというのだ。オグが口ごもっている。怖いことを言うのはやめてくれよ。ヤクザとかじゃないだろうな。
「親がどうしたん?」
「実はすごい借金があるんですよ」
「え、いくらぐらい?」
「聞けないんですけど、たぶん何千万とか…」
「なんでそんなに!?」
「それも聞けないんですけど…」
 聞けない聞けないって、その親子関係っていったい何なんだ。聞けよ。
「聞けないですよ。ウチってちょっと普通の関係じゃないんで」
なんだか暗くなる話だ。なんでもその親、ときどきオグにも10 万単位の無心をしてくるほどだという。
うーーーん。これはどうなんだ。
借金まみれの家族と姻戚関係になっていいのか。いや、ちょっと待てよ。これってその借金をオレに負担せよ、という話じゃないだろうな。だとすれば、これまでの時間は、長期戦の結婚サギだったことになるが…。
 

寒気がしてきた。その目的のために、婚活パーティでオレを選んだのだとすれば…。なんだか辻褄が合ってしまうところが、これまた怖い。
「えっと、その借金って、子供には返済義務はないよね?」
「ないと思います」
「じゃあ関係ないといえばないよね?」
「はい」
 ふう、結婚サギの線は消えた。
「でも結婚したらお金のことでいろいろ言ってくるかもしれませんし、それがイヤなら赤澤さんは私なんかやめたほうがいいと思います」 

ま、法的に債務はないとはいえ、
ことあるごとに金を貸せと言ってくる可能性はあるだろう。
「どうですか、そんな親がいると引きますか?」
「え、ちょっと考えさせて」
 だいたい、その借金額はいくらなのか、原因は何なのか、毎日パチンコばっかりやってるのか、そのへんのことがわからなければ、何も考えようがない。
「早く決めてください。私もこの先の人生があるので」
 

早く決めろって、そんなの決められるわけないだろ! 
実はそうたいしたことではないのかもと思ってみたり、わざわざ火中の栗を拾いに行く必要もないだろと思ってみたり、コーヒーを飲みながらあれこれ悩んだがもちろん答えは出ず、とりあえず保留という形で納得してもらった。
正直、オレの心は急速に離れていっている。
そんな大問題を抱えたまま、父親の面倒を見るために、大阪へ。
用事を済ませたあとで、梅田の婚活パーティに参加してみた。この先、オグとどうなるにせよ、大阪に美人な彼女がいて不都合なことはなにもない。参加女性は5名のみ。可もなく不可もないその5人と順番に会話するうちに、気力がみるみる萎んでいくのが実感できた。また0から関係を築くことのハードルの高さたるや!


まず好みの女性に出会うのが第一ハードル。カップリングに成功することが第二ハードル。もしそこをクリアできても、デートを重ね、旅行に連れていき、プレゼントを渡し、あれこれを重ねに重ねて、それでも後だしジャンケンのように親の借金話を出されたら、すべてが霧散してしまう怖さよ。そんな徒労はもう勘弁だ。
ああ、いったいオレはどうすればいいんだろう。

この連載はオレの恋愛ごとがテーマなのだが、恋愛なんてものは仕事が安定していてようやく考えられるもので、無職だとかフリーターではそんなことをしてる余裕などないだろう。
で、今月はちょっとそういうマズイ事態になりそうな可能性が出てきたことから報告しなければならない。
前回、大阪の実家に住みながら再就職先を探すと書いた。が、それがどうも上手く行きそうにないのだ。
コトのいきさつはこうだ。
8月末、実家に帰省して、現在ひとりぐらしの母親と対面した。上沼恵美子のお姉さんがどうしたこうしたという芸能情報を適当に聞き流したあとで、またいつもの質問が。
「あんた、まだ結婚相手はおらんのかいな」
 結婚か…。考える相手はいるっちゃいるけど、最近、借金問題が発覚したばかりだしな。伝えていいものかどうか。
「んーー、いるといえばいるんやけど」
「え、そうなん! どんな子なんよ?」
容姿やキャラクターなどを教えてやると、母親はずいぶん上機嫌にうなずいている。それもそうだろう、42才の息子にようやく春が来そうなのだから。
「それでな、その子の家庭にちょっと問題があるねん」
「え…」
「親が何千万も借金あるらしいねん」
「……」
絶句したまま、母親はしゃべらない。

「それでな先輩(担当サトウ氏のこと)に相談したんやけど、絶対やめとけって言うねんな」
「あー、そりゃその先輩はしっかりしてはるわ。優秀やわー」
「先輩はええから、自分はどう思うん?」
「私はなんも言えへんわー。あんた怖いから、なんか言うたら怒ってキレるからな。明言は避けるわ。あー、でもその先輩はちゃんとしてはるわー」
それ、明言してるのと同じことだと思うのだが。やはり、親としては借金家族と縁を結ぶのはゴメンこうむるってことか。つづいて、会社を辞める話になり、この家に住ませてもらうと宣言したら、意外な返答が。
「そんなん、かなんで。あんたの部屋なんかないで」
「え」
「やめてや。自分で部屋探してそこに住み!」
 なんたることか。さきほどの借金話で機嫌を損ねたのだろうか。
「え、でもいつも帰省したとき寝る部屋があるやん」

「あかんあかん。住まれるのは絶対かなん!」


親子だというのにこの拒み方はなんだ! 

借金額を教えないオグ親といい、ウチといい、どこも狂ってるんだよ!
仕方なく、大阪で部屋を借りようと不動産屋を回ったのだが、ここで大問題が。
オレの年齢のせいもあるのだろうが、保証会社だけではなく、三親等以内の保証人を用意しろと言うのだ。
大阪での新たな勤務先が決まっているならまだしも、当面この先は職がなく、しかも42才で、独身。あまりに信用がなさすぎなので、保証会社だけではダメだというわけだ。
困った。母親は年金暮らしで支給額が低すぎるため適正なし。父親は無職で入院中なので同じ。ちゃらんぽらんなアニキは引き受けてくれるとは思えない。
つまり部屋を借りられない! 住むところもなく、どうやって職探しすればいいのだ。 本格的に困ったことになった。今の会社にはもう戻れない。新しい会社も探せない。ということは行き着く先は……無職!
こうなりゃ東京に残ったまま、大阪の再就職先を探すしかないではないか。そんなことやってられるのか?そもそも新幹線でオヤジを見舞うのが面倒で不経済だから、大阪行きを決めたはずだったのに!
 

こんな状況下の9月、オグがオレを部屋に招いて、餃子を作ってくれることになった。苦悩だらけで気が乗らないとはいえ、せっかくのありがたい申し出を拒むわけにはいかない。
手際よく作られた餃子を食べ終え、普通のカップルならいざベッドインのところだろうが、EDのオレはそのままぼんやりテーブル前に座りつづける。ああ、これからオレはどうなるんだろう。オグが口を開いた。
「この前のことなんですけど…」
「ん?」「借金の話…」
「ああ、はいはい、借金ね」
ここで暗い話をかぶせてくるか。でも今の2人のテーマといえばこれしかないわけで。
「もしよければ、一回、私の両親に会ってみますか?」
 え? 親に会うだと? 会ってどうなるというんだ。
「そのへんの話をしてみたらどうかと思うんですけど」
「んーーー」
 話すったって、娘にすら詳しく語らないくせに、こんな男がぽっと現れても隠し通すに決まってるだろう。それになにより、婚約の挨拶と勘違いされたら引き返せなくなるじゃないか。
「そんなんじゃないって言っておきますから、とりあえず会うだけはどうですか?」
 会うだけなら、まあいいのか。オレとしても、借金生活のレベルは知っておきたいところだし。さすがに金額は聞けないにせよ、家の様子や身なりを見れば、どんな貧窮ぶりかはわかるだろう。
「わかった。じゃあ会うだけで」
そう答えた瞬間、なにかとんでもない一歩を踏み出したような、ゾワッとした感覚に包まれた。大丈夫なのか。


オグの実家、東北へ行くことになった。目的は、両親の貧困具合の調査だ。借金が数千万あり、娘にまで無心してくる親とはどんな人物なのか。ひどいレベルなら、結婚など到底ありえないわけで。
新幹線と在来線を乗り継ぐうちに、とんでもない田舎にやってきてしまった。車窓から見えるのは山と田んぼだけだ。隣でオグは居眠りしている。事前に親には、彼氏をつれていく旨は伝えてあるようだが、決して結婚などではなく、ただ付き合っているだけの人が顔を見せにくるだけ、ということになっている。実際、オレもその程度の意識でしかない。服装も普段着だし。夕方に最寄り駅に着いたら、オグの母親が迎えにきていた。身なりは普通、車も普通。貧困な感じはしない。オレにとって彼女の親に会うという経験は初めてのこと。緊張しながら後部座席に乗り込む。
「赤澤さんはご出身はどちら?」
「大阪です」
「あら、こんな田舎は初めてでしょう」
「まあ、そうですね」
さしさわりのない会話をしながら、車に乗って30分。到着したのは、土間があるような昔ながらの古い家屋だった。いかにも田舎の農家といった風情だ。現にオグの家は兼業農家らしい。
ざっと外観を見渡す。借金取りの張り紙などはなく、窓が叩き割られてもいない。本当にごくごく普通の古い民家だ。
家では父親が待っていた。畳敷きの居間に通され、落ち着かなく腰をおろす。
「どうも、ゆかり(オグのこと)の父です」
「あ、赤澤です。初めまして」
 身なりは普通。優しい雰囲気のお父さんだ。
 部屋を見る感じでは、特に貧困の色はうかがえない。いや、金を借りてるのだから貧困をごまかせているのだとも言えるわけで、安心はできない。
 現在、夜の7時。まずは食事の準備ということで、お父さんとオレを居間に残し、お母さんとオグは台所へ消えてしまった。気まずい空気に包まれる。
 今回のオレの目的は、借金問題について問いただすことである。いったいどこからいくら借りているのか、親族に返済義務はあるのか。そのあたりを聞き出さねば、こんな田舎にまでやってきた意味はない。が、まだ核心に入るのは早い。とりあえずはどうでもいい会話で時間をつぶすしかない。
 お父さんが口を開いた。
「東北といえば大泉逸郎でね」
「は?」
「歌手の大泉逸郎。孫って歌があるでしょう」
「はあ、そうなんですか」
のっけから何を言い出すんだ。孫の顔が見たいと遠回しにアピールしてるんだろうか。あんたらの借金次第ですよ、それは!
「本当にこのあたりは何もなくてね」
「いや、自然が多くていいですよね」
「昔から自殺が多くてね、このあたりは」
 何で自殺の話題が! これまた借金苦で自殺もありえることをほのめかしてるんじゃないだろな。話題はポンポンと飛んだ。
「娘たちが大学へ行くときは、銀行からお金を借りないといけないと慌ててね」
 ギクッ、来たか借金トーク!
「まあ、ゆかりは写真が好きだとか言うけど、私は娘の撮った写真なんか見たことないね」
 あれ、テーマが変わってしまった。せっかくいい流れだったのに。
 まもなく手作りの料理がテーブルに並び、4人での食事が始まった。さすがに食べながら借金に突っ込むわけにもいかず、他愛のない会話で場を過ごす。
 それにしてもこのご両親は今日のこの顔合わせをどういう意味と認識しているのだろう。本当に彼氏が遊びに来ただけと思っているんだろうか。まあ、オレもスーツを着ているわけではなく、あらたまった印象は与えていないので、結婚、とまでは考えてないだろうが、まさか借金を探りに来たとは思っていないのでは。そして食事後、また2人きりになったところで、お父さんが口を開いた。
「ゆかりから、何か聞きたいことがあるって聞いてるんだけど」
うっ、オグが軽く話を振っていたようだ。さてどうしよう。ストレートに尋ねるべきか。でもそれって失礼じゃないのか。いや、聞かなきゃ何しに来たかわからないぞ。
「いえ、まあ、特にこれといって…」
「ああ、そう」
聞けなかった。ダメだ。ドタンバで怖気づいてしまった!結局、核心に迫ることなく2時間ほどが経過し、さすがに泊めてもらうわけにはいかないので、最寄りのホテルで宿泊することになった。見送りに来たオグが尋ねる。
「どうでしたか?」
「どうって?」
「心配はなくなりましたか?」
 なくなるわけがない。だって借金について何も聞き出していないのだから。
「いや、まあ、変な人じゃないことはわかったけど…。まあ、イイ人だと思うよ」
「そうですか…」
「うん、まあ、本当にいい両親に育ててもらったことはわかったし」
しどろもどろになりながら、なんだかよくわからない感想を答えて、人生初の『彼女の自宅訪問』は終わったのだった。
もうひとつの問題。再就職と新居の問題については、当初の目論見とはまったく違うオカシな方向に進んで解決した。
もう大阪にこだわらず関西ならどこでもいいやと、兵庫県の田舎の会社に応募したところ、あっけなく採用され、それに伴い、兵庫県の田舎のマンションを借りられたのだ。

10月から、赤澤慎吾は兵庫県の片田舎で生きていくことになった。まったく土地勘もなにもない場所でひとりきり。オグとは親の借金問題をほったらかしにしたまま遠距離恋愛という形だ。いったいオレの人生はこれからどうなるのか。皆目、見当がつかないが、とりあえず関西のみなさん、今後よろしくお願いします。
兵庫に住むことが決まり、東京・中目黒の部屋を片付ける作業に追われているときに、オグからラインがあった。会って話をしたいという。絵文字もスタンプもないラインが来たときは、良からぬ話に決まっている。意を決し、喫茶店で待ち合わせた。無表情でオグが言う。
「私の両親のことは整理がつきましたか?」
「いや、まあ、オレだけじゃなくて、ウチの親にも考えがあることやし、もうちょっと待ってほしいんやけど…」
「そうですか…」
しばらく気まずい無言がつづいた。次に口を開いたのもオグのほうだ。
「私にも婚期があるんです」
「ああ、うん」
「この後のことを考えさせてほしいんですけど」
「考えるって?」
「このまま続けていくかどうかです」
オグの言うことはもっともだ。彼女も30才をとっくに過ぎ、今から遠距離恋愛なんて不確かな環境に身を置くわけにもいかないんだろう。それで、オレの考えはどうなのか?オグ個人についてはまったく問題のないステキな女性だと思っている。この後の人生で彼女以上の女性に出会える機会はおそらくないだろう。しかし家族の借金問題が大きすぎる。どうにもならないほど大きい。百歩ゆずってオレが目をつむるとしても、実家の母親はそれを許すだろうか。
なので現在のところは遠距離恋愛をつづけ、もしそれでダメになったらそれまでだし、時間が経つうちにオレと母親が共に借金を気にしなくなればゴールインもありえる、という曖昧な態度でいるしかない。
「オレは別れたくはないんやけど」
「でも、そんなに待てません。婚期があるので」
婚期、婚期と、ずいぶん年齢を気にしているようだ。でも、かといって今、プロポーズするなんて絶対にありえないわけで。
「とりあえず、今はバタバタしてるから、新しい生活に馴染んだらまた話すってことでどう?」
「…わかりました」
納得してない表情で、オグは帰っていった。 
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