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パソコンにウェブカメラを繋げて、居間のテーブルに置く。レンズはこの角度でいいだろう。あのドアさえ映れば大丈夫だ。ビデオカメラじゃバレバレだけど、パソコンだったらあの二人も気づきっこない。後は録画ボタンを押すだけだ。

父親は酒グセの悪い人だった。物心ついたころから、母は父にいつも殴られていた。オカズの品数が少ない。テレビのリモコンが見あたらない。どうでもいいことで腕を上げるどうしようもない男だった。
二人が離婚したのは、私が17才で高校を中退した直後だ。実家に帰らず、茨城県の水戸に引越した母に、私は迷うことなくついていった。
生活のため、母はスナックで働きだし、私も18才になってすぐ別のスナックに勤めて家計を助けた。女二人だけの穏やかな暮らしだった。19才を過ぎたある日、いつもは夕方まで寝るはずの母が、珍しくお昼から浮かれた様子で台所に立っていた。

「どうしたの?」「今夜お客さんが来てくれるから夕ごはんを作ってるのよ」
スナックのお客さんを自宅に招くなんて初めてのことだった。深夜、店が終わり帰宅すると、玄関には男モノの靴があった。居間に焼酎のビンが転がり、知らないオジサンと母が二人で顔を真っ赤にしている。


「おかえり。こちら岩本さん」「あ、娘さん?はじめまして」

見るからにスナックによくいそうな、現場仕事系の男だ。お客さんってこの人だけ?二人きりでどういうことよ。


「のりこも一緒に飲みなさいよ」


誘われたが、疲れていたので自室にこもった。なによ、いい歳して男の人なんか連れ込んで。その客、岩本さんは、以来ときどきウチにやってきては、母の部屋に泊まっていった。

二人がデキているのは明白だけれど、母が好きなら私は反対しない。岩本さんはあのオッサン(父)みたいに暴力的じゃないし。 


まだ独身の彼は、いつしかウチで暮らすようになった。朝、お弁当を持って勤務先の工務店に向かい、夕方戻ってくる。そして三人で夕飯を食べてから、私たち女はスナックへ出勤だ。


そんな生活が1年、母は岩本さんと再婚した。母41才、岩本さん34才の年の差夫婦だ。そして私は20才。二人のことを思えば家を出て行ってあげるべきなのだろうが、自分で家賃を稼ぐのはしんどい。これまでどおり、私は2DKのうちの和室で寝起きし、夫婦二人には洋間を使ってもらった。


「変にかしこまらないで。お父さんなんて言われたら、こっちがビックリしちゃうからね」
新しいお父さん、岩本さんはそう私を気づかってくれた。もとより私も、お父さんなんて恥ずかしくて口に出せない。他人行儀に岩本さんと呼ばせてもらうことにした。でも呼び方は他人でも、岩本さんは、私の求めていたお父さん像そのものだった。

夕食のとき、母の手料理に大げさなくらい「おいしい」を連発し、ゴミ出し当番を忘れて私たちに叱られては、「明日かと思ってた」と小さくなって言い訳する。

そんな何気ない人間っぽさがとても微笑ましかった。母もスナック勤務をやめ、朝起きて夜に寝る人間的な生活になったおかげで、以前よりずいぶん表情が明るくなっていった。最初からこの人と結婚してたらよかったのに。 


ずっとこのままならいいんだけれど。1年ほど過ぎて、岩本さんが会社をクビになった。持病の腰痛が悪化したせいだ。一家の収入は私の手取り20万ほどだけになった。
「のりちゃん、本当にゴメンな。オレがこんなになっちゃって」
岩本さんはいつも優しい言葉をかけてくれた。帰りが遅い私を寝ずに待ち、「いつもありがとうね」と言ってくれる。それだけでも疲れが取れる気がした。看病に疲れた母が小言を言うようになってからは、二人きりになるのが気まずいのか、岩本さんは居間にいることが多くなった。話し相手は、いつも私だ。


「ホント、オレってダメな人間だ」

「病気なんだからしょうがないじゃん」

「のりちゃんには一番迷惑かけてるもんな。ごめんな」
「そんなことないって。私もいろいろ話きいてもらって助かってるし」
お父さんであって、お父さんじゃない。毎晩のように話し込むうちに、岩本さんに対する感情はだんだん「好き」に変わっていった。 


正直言って、私はブスだ。スナックでも愛きょうだけで売っているようなもので、彼氏も高校時代の一人を最後に、できたためしがない。そんな私が異性として意識できるのは、鼻の下を伸ばして女の子にちょっかいを出すお店の酔客じゃなく、一緒に暮らすお父さん、岩本さんだけだった。画面の端に人影が見えた。彼だ。ドアを開けて中に向かってなにかしゃべっている。そのまま彼は中へ入っていく。何の用があって?


ある深夜、店が終わって家に帰ると、いつものように岩本さんが居間で静かにテレビを見ていた。
「お母さん、出かけちゃったよ」小言を繰り返した母は、
「友達と飲んでくる」と出ていったそうだ。二人で焼酎を飲みながら母を待った。いっこうに帰ってこないし、携帯も圏外だ。 

夜が白みかけたころ、すっかり私は酔っぱらっていた。立ちあがると転んでしまうくらいに。手を貸してくれた岩本さんにしがみつくようにして、私は自室へよたよた歩き、そのまま二人してベッドに倒れ込んだ。 


もう我慢できなかった。私は無言で唇にキスして、彼の手を自分の胸へ持っていった。そう、もっと触って。自ら服を脱ぎ、そして岩本さんの服も脱がせて、素っ裸になって抱き合った。彼は何も言わず、息づかいを荒くさせて、私の中に入ってきた。久しぶりのエッチなのに、とても感じた。

気持ちイイ、体も心も。お母さん、ゴメンだよ。母に内緒の関係は、一回だけでは終わらなかった。岩本さんも私を求めてくれたのだ。ともだちと飲みに行くことの多くなった母は、深夜、頻繁に外出した。ダンナを一人残して。そんなとき、私は彼を部屋に誘った。 


いつも優しいエッチだった。恥ずかしいけれど、アソコを舐めてもらうだけで何度もイッてしまう。そして彼も「好きだ好きだ」と言いながら満足してくれた。継父にされる、なんて話はよく聞くけれど、私たちのはそれとは違う。互いに愛し合っているのだ。誰にも言えない禁断の行為なのは間違いないけれど。


母は気づいていなかった。使い終わったコンドームはちゃんと外で捨てているし、二人が変な空気を出したこともなかったと思う。なにより岩本さんが仕事をやめてから、母は夫婦生活に関心を失っている様子でもあった。本当かどうか、最近はシテないって彼も言ってるし。 


秘密の関係が半年ほど続いたある日、岩本さんが思い悩むように言った。
「のりちゃん、お母さんに言おうと思ってるんだ」…お母さんに?何を?呆然とする私に岩本さんはたたみかける。
「もしのりちゃんが同じ気持ちだったら、ちゃんと離婚してから先を考えたい」
離婚?先を考えたい?まさかそこまで本気になってくれてるとは思ってなかった。彼は母と別れて、娘である私と一緒になりたいと言うのだ。木訥な岩本さんがまっすぐプロポーズしてくれたこと、それ自体はうれしい。でもありえない。そんなこと、母にどう伝えるのか。わが子と旦那ができちゃいましたなんて、聞けば発狂しちゃうだろう。 

なのに、私は彼の提案をばっさりとは切り捨てられなかった。やっぱり女、自分の幸せを大事にしたくなるのだ。まだ22才の私だけど、たぶんこの先、愛してくれる人が現われるとは思えない。スケベなスナックの客にすら誘ってもらえないのだから。 


岩本さん、優しくしてくれる人、愛してくれる人、でもお父さん。悩んだ。どうして母なんかと結婚したの。それさえなければ…。結論は出た。 

三人が居間にそろったとき、私は意を決した。

「話があるの」「どうしたの、神妙な顔して」

…言葉が続かない。怖い。どこからどう話そう。沈黙を打ち破ったのは岩本さんだった。
「オレ、のりちゃんと関係を持ったんだ」

母の顔を見るのが怖くて、私は下を向いた。岩本さんは続ける。キミには本当に申し訳ないけれど、のりちゃんを愛している。別れてくれないか。
「…それで?」

母は不思議と落ちついていた。

「それでどうしたいの?」

「許してくれるなら、のりちゃんと一緒になりたい」


母は笑った。強がっているのか、自分が馬鹿馬鹿しくなったのか、そこまでは娘の私にもわからない。

「別れるよ。別れてあげる」


岩本さんは母と離婚し、すぐに私と籍を入れた。誰もが眉をしかめるだろうこの急展開、ぐちぐち反対されそうな親戚づきあいがまったくなかったのは幸いだった。そして三人の同居はそのまま続いた。
母も岩本さん(結婚してからもそう呼んだ)も、心に微妙すぎる何かを持っているはずだったし、私だってそれは一緒だ。でも家計の事情から、離れて暮らすことはできなかったのだ。 メンバーは同じでも、肩書きはそれぞれ変わった。岩村さんは私の夫、母はバツ2、私は新婚。岩村さんの寝室は、当然、私の和室へ移った。母に気兼ねして、世間一般のようなハジケた新婚生活にはならなかったけど、私は幸せだった。夜のスナック勤務と、深夜帰ってからのエッチ。そしてお昼から夕方までのむつまじい時間。すべてが充実していた。 

しかし半年ほどで、ふと不安が襲ってきた。エッチの回数が減ったのだ。岩本さん、誰かと浮気してる?誰か。そんなのあの女しかいない。母だ。家にこもりきりの二人、チャンスはいくらでもある。なにしろ彼は〝前科〞持ち。信用なんてあったもんじゃない。証拠を残さないためにも、現場は母の洋室で間違いないだろう。ならば居間のパソコンにカメラを仕込み、洋室への二人の出入りをチェックすれば…。部屋から母が出てきた。手にバスタオルを持っている。そのまま画面左へ消える。この時間からシャワー? 

しかもよく見れば下はパンティー1枚だ。数分して、濡れた髪をふきながら母は部屋に戻ってきた。岩本さんを招き入れて、40分後に下着でシャワーへ。やっぱり。私の疑惑は正しかった。せっかく奪った男は、また奪い返されていたのだ。実にあっけなく。別れるつもりはない。せっかくつかんだ愛なのだから。でももし彼が告白してくればどうしよう。またお母さんと一緒になりたいと。笑って許せる度量は私にはたぶんない。
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