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俺は早希に惚れている。めっちゃ惚れている。寒空の下、早希の笑顔を見たときに自分の気持ちがはっきりとわかった。ドキドキソワソワしながら、繁華街へと歩き出す。可愛いなぁ。この間の帰り道みたいにくっついて歩きたいなぁ。情けないことに、まるで童貞の中学みたいなドギマギ具合だ。
「友達においしい居酒屋さんを教えてもらったんですけど、そこ行ってもいいですか?」
一応、俺も店を予約していたけど、構へんよ。店に入ると忘年会やら学生の飲み会や
らでガヤガヤしている。ここじゃ、あんまり落ち着いて話せないかなぁ。
「すいません、個室予約していた○○ですけど」
個室を予約してたんかい。なんか用意周到やなぁ。こじんまりとした個室に向い合せに座った。正面から改めて早希の顔を見る。やっぱり可愛いよなぁ。
「こないだは暗い話ばっかりしてゴメンなさい」
「ううん、全然かまへんよ」
「話せてすごく楽になったんです。迷惑やったかもしれへんけど、話してよかったなって。今まで誰にも話せなかったことやから…」
そう言われれば、何か自分が早希にとって特別な存在なんだと思えて誇らしい。いつでも相談してこいよ。今日は暗い話はしませんという早希と、音楽の話、今度就職する会社の話、卒業旅行の話などで楽しく過ごした。まだそんな遅い時間じゃない。もう1軒飲みにいこうよ。
「いいですよ。いこう。いこう!」
よっしゃ! もう1軒いける。2軒目でもっと飲ませて…なんて下心からじゃない。単にずっと早希と一緒にいたいだけなのだ。2軒目に向かう道すがら、早希が手をつないできた。来た、来た。これを待ってたよ。心拍数がどんどん上がっていく。
「私、ベタベタしぃなんですよ。でも、ベタベタされるの好きじゃないんでしょ?」
確かに、どちらかといえばベタベタ甘える女はうっとうしいと感じる方だ。でも、早希なら構わん。もっともっと甘えてくれ!
「ほんとに私と付き合いたいんですか?」
落ち着いたバーに入り、カウンターで隣同士に座る。早希を意識しすぎているからなのか、なんかそわそわと落ち着かない気持ちで、ついつい酒をハイピッチで飲んでしまう。1時間もすれば結構酔っぱらってしまっていた。対する早希は、ちびちび飲んでいるからか、ぜんぜんシャンとしている。あかん、完全に立場が逆転しているやないか。
「河内さん、私、前にママと張り合ってるって話しましたよね」
「うんうん」
「でも、もうどうでもいいんです。こうやって河内さんと仲良くなれて」
そんなふうに言われたらうれしいよなぁ。でも、正直、俺のことはどう思ってるんやろ。男として好意を持っているのか?やっぱり、父親のような存在なのか?
「うーん、よくわからないけど、大好きですよ。こんなに甘えられるのは河内さんだけだし。でも河内さんは、私のことお子ちゃまだと思ってるでしょ。いつも私のこと『よし、よし』って見守ってくれてる感じやし」
「いや、早希のこと、好きやで。子供やなんて思ってないし」
酔ってるせいか、本音でベラベラ話してしまう。もうええわ。正直に気持ちを話そう。
「はじめは菜々子の娘で、可愛いコやなとしか思ってなかったけど、今は、ほんまに好きやねん」
「ほんま?」
「ほんま!」
「びっくりした…」
「早希はどうなん?」
「私も大好き。でもドキドキするより安心するっていうか、これって恋愛感情なのかなぁ?」
なんかもう酔ってるし、あれこれ〝好き〞の定義を考えるのもどうでもよくなってきた。
「ええやん、好きやねんから。付き合あおうや」
「ほんと? ほんとに私と付き合いたいんですか?」
「うん」
「……」
早希は黙っている。迷っているのか。そりゃそうだ。母親と同い年のオッサンにいきなり付き合ってくれと言われても困るわな。しばらくして早希が口を開いた。
「うん。よろしくお願いします」
OKってことか? うれしい! うれしいがほんとにこれでいいのか?
自分からコクっておきながらOKされるとちょっとビビッている情けない俺に対して、早希が真顔でこう続けた。
「条件ってわけじゃないけど、いくつかお願いがあるんですけど」
「なに?」
「ママとは絶対に何もしないでね」
うんうん、これからはしないでおくよ
(もう、しちゃったけど)。
「それから、河内さんは家庭があるから、わがまま言うつもりはないけど、どうしても私が会ってほしいときは、会ってくれる?」
うんうん、そんなん会うに決まってるやろ。こうして、酔った勢いで告白し、30も年が離れた同級生の娘と晴れて付き合うことになった。なんか自分が若返ったような気になってウキウキしている。この先いったい何が起きるのだろうか。
年下の可愛いコと付き合うことになったがどうしたらよかったんだっけ?
早希と付き合うことになった。そもそも、『付き合う』ってどういうことだ?俺の解釈は、お互いに好きな男女が、時々会って、デートしたり、キスしたり、エッチしたりすることだ。そういう意味では、俺は結婚してから23年間、女と付き合ったことがない。
 決して惚れっぽくない俺だが、女を好きになったことは何度もある。だが、『既婚者の俺と付き合っても結局彼女を幸せにできない』『家庭を壊す気がない』などの理由で付き合うことを避けてきた。実際は、後々面倒になるのはいやだと思っている、ただのヘタレなのだが。また、たまに会ってデートしたり、エッチしたりする女もいなくはないが、単なるセフレで、恋愛感情はないし、決して「好きだ」とは言わない。こんな俺が、23年ぶりに、しかも30も年下の可愛いコと付き合うことになって少々戸惑っている。『付き合う』ってどうしたらよかったんだっけ?ただ、戸惑い以上に、うれしい、ドキドキする、彼女を想うと切ないという『浮かれ気分』のほうがずっと大きいのは確かだ。
『昨日は、好きやっていわれてめちゃうれしかった!私も大好き♥ 今度会うとき、すごくドキドキしそう』
告った翌日は早希からこんなメールがきたので、一日中にやけがとまらなかった。
仕事中に、ネットで彼女との相性占いをしては一喜一憂したり、メールの着信があれば、彼女からじゃないかとドキドキしたり…。まるで初めて彼女ができた学生みたいやないか。一方で、気になることがないわけじゃない。早希の母親、美魔女の同級生、菜々子だ。彼女と関係を持ったあと、「早希とやったら殺すよ」とキツーいクギを刺されている。ヤッたわけじゃないけど、付き合ったと知ったらやっぱりただじゃ済まないよなぁ。まぁ、早希もそのあたりはうまくやってくれると信じるしかない。早く早希に会いたいという気持ちが募る俺だが、会社は年末年始の休みに突入。早希からも、家にいる俺に連絡するといけないと配慮しているんだろう、メールが全く届かない。ありがたい反面、やっぱり寂しいなぁ。
早希からメールが届いた。
『ご飯いきましょ!!』
 間髪入れずに返事を送った。
『いく! いく! 今日、いく?』
『わーい♥』
取引先へのあいさつ回りに行ってから直帰するということにして、4時に早希と大阪市内の某神社前で待ち合わせした。
「おめでとうございます!」
すでに待っていた早希はデニムにもこもこしたロングコート。ニットの帽子をかぶり、かなりラフな服装だ。ほとんどすっぴんだし、歳以上に若く見える。
「まさか今日会えると思ってなかったんで、きたない格好でごめんね」
いやいや、いつものエロかわいい系もいいけど、ラフな格好もよく似合っている。今年の早希もかわいいよなぁ。 一週間ほどしか空いていないのに、すごく久しぶりに会ったようで、うれしいし、ドキドキする。メールで「ドキドキしそう」って言ってた早希はというと、緊張している様子も見えず、「初デート! 初モーデ!」と楽しそうだ。賽銭を投げ込み、さあ、何を願おうか。ちょっと考えて、こうお祈りした。
『とりあえず、嫁や菜々子にばれることなく、今年1年、 早希と楽しく付き合えますように』
 早希は何を願ったんだろうか?
「そんなん、秘密に決まってるやん。河内さんは何をお祈りしたの?」
正直に答えると、爆笑してから「ありがとう」とハグしてきた。またドキドキしてきたやんか。手をつないで、早めの食事に向かう。今日、早希は家庭教師のバイトがあるの
で、8時までに帰らなければならず、酒も飲めないそうだ。残念だけど、仕方がない。今日、急に会えただけでもうれしいし。スペイン料理を食べながら、会話を楽しむ。酒が飲めない早希につきあって、俺も今日は我慢しておこう。
「付き合うって決めて、初めてのデートだけど、今までとかわんないよね」
「そうか、俺、結構ドキドキしてるで」 
なんか、ちょっとネガティブな発言のようで、気になるなぁ。
「私は、前から河内さんが好きだったし、いつも素直でいられたので、あらたまって付き合うことで変に意識しちゃったら嫌だなぁって思っててん。でも、今まで通り、素直に話せるし、これからもずっと大好きな河内さんと、こうやって会えたらいいなって」
うれしいなぁ。うれしくて、ちょっとウルウルしてきそうだ。でも、23年も女と付き合ってこなかった俺が、なんで早希には、思い切って付き合おうと思えたんだろうか? 早希の時よりもっと気持ちが昂ぶっていた女もいたはずなのに、その時はブレーキを踏
んでしまった。今回は、ほとんどブレーキを踏まないまま、飛び込んでしまっている。
「なぁ、なぁ河内さん、なんか見たい映画ある?」
今までと変わらないといいながら、気がつけばタメ口になっていてグッと距離感を縮めている早希。その黒くて大きな瞳に吸い込まれそうだ。そうや、彼女は〝小悪魔〞だったんだ。店を出て、誰もいない通りで、早希は俺に抱き付いてきた。そのままキスをする。軽めのキスだったが、なんとも甘くて、痺れるようなキスだ。
ちょっと大げさだが、魂を吸い取られるような気持になった。もっとこのまま一緒にいたい。もっとキスしたい。そう思いながら、早希を駅まで送っていった。早希との短い『初詣デート』の余韻にひたっていた翌日、なんと、早希の母親、菜々子からメールが届いた。 少々ビビりながらメールを開く。
『しんちゃん、あけましておめでとう! お久しぶりです。忙しいと思うけど、近々会えないかな』
バレたのか? 会ってまたヤリたいのか? そして、会うべきか?会わざるべきか?どうする、俺。
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