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世に外人女性好きの男は多い。ブラジル娘がたまらん、やっぱ北欧の女の肌は最高、アジアとヨーロッパの血が混じったトルコの女性が一番、いやフィリピーナにかなうものはない。人種の好みは人それぞれだが、オレは何と言ってもロシア人女性に惹かれる。雪のように白い肌。風にそよぐ黄金の髪。そして美の女神アフアティを彷佛とさせるルックス。霊長類ヒ卜科のメスとして、これほどまで完成された造形美をそなえた人種が他にいるだろうか。
東にロシアンパブあれば同伴し、西に外人専門へルスあれば通い詰める。まさにロシア好きでは人後に落ちないオレだが、最近、ふと虚しさに襲われる瞬間がある。オレが彼女らに心を奪われる理由は外見の美しさもさることながら、日本人ギャルにはない「素朴さ」である。が、この美徳は皮肉なことに彼女たちが日本の地を踏んだ瞬間から色褪せていく。やれ指名だ、同伴だ、と日進月歩でプロ意識が芽生え、ひと月もすりや「マネー、マネ—」と鳴き喚く金色夜叉に化けるのだ。間違いない。商売女に「素朴さ」なんか求めんじやね一よ。という意見もわからんでもない。が、例えばセックスマシンのようなヘルス嬢にツボをこころえたフェラをされるより、入店したての新人に歯をたてられながらされる稚拙な舌づかいの方がソソることはないだろうか。オレは後者の方が断然いいぞ。
素人ロシア女とチョメチョメできる場所はないか。日頃、情報を求めていたオレに、耳寄りな話が舞い込んだ。北海道小樽。この北の地で、夜な夜なワゴン車に乗って春を売り歩くロシア娘たちが出没するらしい。しかも彼女らはプロ娼婦ではなく、ごく普通の女子大生や。つまり全員が「素人」だというのだ。素晴らしい。実に素晴らしい話ではないか。
『白い恋人』を求めて、いざ小樽へ
週末。昼下がり、オレは小樽駅のホ—厶を踏んだ。石原裕次郎の等身大パネルと記念写真を撮るオバちゃん軍団を横目に改札を抜けると、雪化粧された大通りが広がっている。その先には灰色の海と波止場だ。小樽といえば裕次郎、運河、ガラス細工などで有名だが、あまり知られていないもうつの顔が存在する。サハリン航路だ。月便の定期フェリー「サハリン号」が就航し、街はロシア人の船員でごったがえしていると聞く。新潟がロシアの玄関なら小樽はさながら「勝手口」といったところか。サハリン。なんとなくイナカ臭い娘がいそうな名だ。まずは、港を目指し凍った道を恐る恐る歩き出す。あそこから売春ギャルが上陸する。
そう思うといてもたってもいられない。水揚げ直後が旨いのは魚もロシアンガールも同じ。もしかしたら夜を待ちきれず客を探しているギャルがいるかもしれん。白い息を弾ませ、小樽運河をサクサクと通過したあたりで、コサック帽を被ったロシア男性人組とすれ違った。きたよ、サハリンからの風が。さあギャルちゃん出ておいで。オレがみんなまとめて買い占めてやるわ。が、歩けど歩けど、ギャルの姿はないつーか、ロシア人自体いないじやん。事前の情報と違うぞ。では、フェリ—夕—ミナルはどうか。さすがにここには…と、埋まる雪道をズボズボと歩いてみたものの、うう閑散としてるじゃんよ。大柄のロシア人男性が一人、波止場へのゲ—卜を閉めている姿が目に入った。
「エクスキューズミー。あの、もうお終い?」「今日カラオ正月休ミダヨ」
市街を足が棒になるまで探索してもワゴンどころか、老若男女問わずロシア人が人っ子一人いない。あちゃー。もしかしてガセ?やっちゃったオレ。いや、ネガティブに考えるのはよそう。いなければ探すのみ。まずは、小樽の繁華街『花園銀座』で聞き込み開始だ。異国で売春する以上、当然こちらでサハリンギャルを手引きしている日本人がいるはずだ。それを探す。片っ端からスナックを当たり、そろそろ日付けが変わろうかというとき、あるスナックのマス夕ーの紹介で、ロシアの裏ビジネスをとりしきつているという男性と電話でことができた。事情を説明すると、その男は低声で眩いた。
「確かに…そのワゴンはウチでやってるけどよ」
「マジすか!ぜひ乗せてください。お願いします」
「今かよ?今は、その、ちょっと無理だな」
「せ、先約すか?いいつすよ、オレ何時間でも待ちますから。なんだったら明日でも」
「いや、そういう問題じゃなくてよ、今は誰もいね—んだわ」
は?は?なんですと思わず聞き直せば、何たること、売春ギャルたちは数日前のフェリーで帰国してしまい、次回来日するのも未定だというではないか。
「もう少し早ければな。アンタ、運が悪いね。ま、来年また来てみてくれよ」プロ娼婦ではない彼女たちからすれば、わざわざ異国で年越しをしてまで『売り』はしないってワケか。くそ、なんでもっと早く来なかったんだ!しこたまヤケ酒を浴び、千鳥足で飲屋を出たのが午前時。アーケードのデジタル温度計には「マイナス」という数字が光っていた。港から陸に上がった女はどこへ向かう?翌朝。目が覚めるとすぐに荷物をまとめてホテルを出た。サハリンギャルのいないこの地に、もはや留まる理由はなにひとつない。
「お客さん、観光?」タクシーで駅に向かすがら、好々爺とした運ちゃんが話しかけてきた。
「北ガラスは行きました?あそこも昔は良かったけど」いつもなら適当に聞き流すところだが、つい言つてしまつた。
「ロシア女と遊びにきたんですよ。ダメだったけど」
無愛想に答えるオレの顔を運ちゃんがルームミラー越しにマジマジと見つめる。
「…だろうねえ、あんな事件もあつたから」「事件?」「なんだい、知らね—のかよ。売春船の事件」運ちゃんは言った。一昨年、サハリン娘に売春を斡旋していた容疑で人のパキスタン人が逮捕された。が、それは氷山の角に過ぎず、間もなくロシアンマフィアが仕切る大規模な売春組織の存在が明らかになつたという。
「ここらの人、サハリン号を売春船なんて呼んでるね」
「じやあその事件以来、さつぱりですか」
「だね。取り締まりが厳しくなつて、ロシアのネ—チャンたちもあんまり見かけなくなつたねえ」「そうなんすか…」「まあ、今、小樽でロシア遊びは難しいよ」
運ちゃんは意味ありけに笑う。なんだ、どうした?
「ニブいねえ。ここは港だろ。ネーチャンたちは下りるだけ。普通は陸にあがつたらどこ行くさ?」「…どこでしょう?」「そりや、オメ—、ススキノに決まつてるべさ」
ススキノか—確かに、札幌までは急行電車でわずか分。この小さな港街で『商売』するょり、隠れる場所の多い大都市の方が安全に違いない。
「今はススキノでしばらくバイトして帰つてくらしいね。ま、おおかた中島公園ススキノ近くのラブホ街あたりでタチンボでもしてんじゃね—か」
サハリンギャルが路上で客引いてるつてか。か—。思わず顔が緩んでくるじやんよ。
「そういや、何日か前も、仲間がネ—チャンたちを駅まで乗せたつて言つてたな」運ちゃん、釣りはいらない—ポン引きは言つた。
ススキノにロシアはない
数時間後。オレは札幌ロビンソン百貨店前で、ネオンが灯る繁華街に立つ男たちを見つめていた。ススキノ名物ポン引き。悪質なボツタクリは全国的に有名だが、この街の女のことは知り尽くしてるはず。とりあえずは、彼らに頼るしかない。歩き始めると、分もしないうちに夏木ゆたか似の男が満面の笑みで近づいてきた。
「お客さん、今日は何?飲み?抜き?いいとこ紹介するよ」
「ロシアの娘と遊びたいんだけど、どこか知らない?」
「ロシア?無理だよ、無理。ススキノにはロシアンパブもないんだから」
「いや、それは表向きの話でしょ。連れ出しとか、タチンボがあるじやない」
「ねえよ。絶対にない。オレが言ってるんだから間違いないね。韓国ならいい連れ出しパブ知ってるから、そっちにしなよ」
ダメだこりや。早足で立ち去る才レの背後で、吐き捨てるような声が響く。
「無理だって。ま、誰に聞いても同じだろうけどね」
果たして、夏木の警告は正しかった。その後、十数人のポン引きたちに話を聞いても、みな示し合わせたように同じ答しか返してこないのだ。日く、ススキノにロシア人女性は存在しない。数年前なら、外人パブが隆盛を誇り、ヘルスやソ—プで働く女も珍しくなかったが、例の事件で状況は転。道警や入管の威信をかけた『不法外国人狩り』が始まり、店は軒並み潰れていってしまった。ふいに運チャンのニヤニヤした顔がよぎる。あの野郎、テキト—なことホザきやがって!もはや打つ手無し。行く当てもなくススキノの雑踏を彷徨ううち、ネオンが滲んで見えてきた。もうホテルに帰ってマスかいて寝よう。負け犬ム—ド全開で背中を丸めて歩いてると、黒い革コー卜でキメたの角田によく似た男が声をかけてきた。「兄ちゃん、もうお帰り?遊んでかないの?」ほっといてくれ、どオレは今、暗い部屋で中島みゆきでも聴いていたい気分なんだ。シカトをキメこみ、ツカツカと歩くも、オッサンは食らい付いてくる。
「なあ、何がしたいのさ?どんな店でも紹介するから」
どんな店でも、だと?オッサン、よく言ぅぜ。
「オレは今日、ロシア娘を抱きたい気分なの。ないでしよ、そんな店は。ハイ、サヨナラ」
「ロシアだあ?あのね、知らないかもしれなけど、札幌は北海道で一番入管が厳しいの」
「らしいねえ。だからもぅ帰るんすよ」
「わかってんなら、ヘルスでもいってピユッとさ。絶対後悔させないようにいい娘付けたげるから」もうその展開は飽き飽きだ。じやぁな。歩調を早めるオレの腕をオッサンが掴む。おい何やってんだ。「アンタ相当好きなんだな。仕方ね—かぐら教えてやるよ」な、なに角田似に案内されたのは、ススキノの中心部にある雑居ビルの最上階だった。玄関と看板からはごく平凡なスナックのよぅだが…。「ロシアの子がいなかったらすぐに帰るからね」「いいから、いいから」促され、ドアを引くと、キヤミソル姿のホステスが人待ち構えていた。デブったソニンと、栄養失調気味の木村佳乃といえば適当か。カウンタ—の中で痩せた荻野目慶子という感じのチーママが無愛想に頭を下げる。「いらっしゃいませえ。さ、奥にどうぞ」けっ、どう見ても、生粋の日本人スナックじゃね—か。「おぃおぃょく見なって」ん?奥の方にもう一人座ってるぞ。妙にバタ臭い顔に、金髪のロングヘア。どことなく若いこ頃のジョディフォスターに似てるような。ンって、おぃマジかよ。角田がニヤリと笑い、店から出ていく。と、オレは吸い寄せられるように、その女の隣に座った。「イラッシャイマセ。ワタシ、マリアデス」「あ…ど、どこの国ですか?」「ロンアアス」嗚呼、この言を聞くためにどれだけ苦労したか。抱きしめていい?「お兄さん、運がいいね。マリアと会えるなんて」オレたちの両脇に座りジンロで水割りを作り始めたソニンと佳乃が言ぅ。「え?どぅつこと?」「ワタシ、アト数日デ、ロシア帰リマスヵラ」何でも、彼女はサハリンの女子大生で、試験休みになると北海道に観光に訪れ、この店でバイトしているのだという。サハリンの女子大生。売春婦でも何でもない普通のロシアのお嬢さん。くくくく、オレはツイてるぜえ。いや待て待て。喜ぶのはまだ早いぞ。この店、どう見たって場末のスナックって雰囲気だろ。連れ出すのはなんじやないのか。とりあえずは口説くしかね一か。粘ること一時間。ようやく他の客が訪れ、佳乃とソニンが消えた。よし、もうまどろっこしい話は抜きだ。マリアのブルーの瞳を見つめ、オレは言った。「お店終わったら、ホテル、オーケー?」マリアは何も言わずいた。ヤベッ、怒らせちまった?ごめんごめん冗談だよ。笑ってゴマかそうとするオレに、彼女は顔を上げ、ハニカミながらこう結論から言ぅと、マリアは「素人ではなく、エンコー女子大生だった。ちなみに、小樽のワゴン売春とは関係なく、その存在すら初めて聞いたという。ぐが、もはやオレにはどぅでもいい。マリアがベッドで見せた恥じらい、ぎこちない動き。それはまさしく「素人」と呼ぶにふさわしい初々しさだったのだから。
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