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恋愛関係が始まるときというのは、どちらか一方がグイグイ押しまくるのではなく、互いになんてことのないメールを送りあったりしながら、双方の気持ちが盛り上がっていくものだと思う。特にオレのように、押しまくってあっさりフラれる経験ばかりしてきた者にとっては、向こうからも押してきてくれないとどうにも安心できない。
さて先月お花見につきあってくれた杏里ちゃん。たぶん脈アリだとは思うのだが、まだ積極性が感じられない。なのでわざとこちらからは連絡せずに、先方の出方を待つことにした。デートの誘いじゃなくてもいい。日常のちょっとした出来事、例えばこんなものを食べただの、こんな店に行っただのを連絡してきてくれるだけでも恋心を確認できるというものだ。作戦は完全に裏目に出た。待てど暮らせど、メールの一通も来やしない。GW前、業を煮やしてメールしてみた。
〈連休はお遍路に行くか悩んでいます〉
私も連れてって!という返事を期待しての内容だ。すぐに返信は来た。このあたり、無視する女とは心の出来栄えが違う。どれどれと開いてみる。
〈はい頑張ってください〉
たった一言だった。なんだろう、この素っ気なさは。一度デートした間柄とは思えない、この他人行儀ぶりは。あんなに礼儀正しかったのに、どうして? 記憶喪失なのか?夏に大台の40才になる身としては、もうなりふりかまっていられない。ロンリーなお遍路など時間の無駄だ。
 向かうは婚活パーティだ。この種の催し物で、かつて一度たりともカップルになったことのないオレにしてみれば、戦う前から負けは決まったようなものである。なので今回は必殺の飛び道具を使うことにした。プロフィールカードの年収欄を「1200万円」にしておくのだ。まだカネに釣られる女のほうがマシだ。
 土曜、夕方からのパーティには、男女それぞれ20人ほどが集まっていた。ざっと見た感じ、39才のオレが最年長のような気もする。まあいい、今日のオレは年収1200万なのだから。最初の回転寿司タイムが30分ほどで一周した。誰ひとりとして年収の話題には触れてこなかったが、手に持ったボールペンはまめに動いていた。しっかりメモは取られていたに違いない。
オレが気に入ったのは、
2番(素朴系)
7番(美人系)
9番(笑顔がまぶしい)
の3人だ。カードに丸をつけてスタッフに渡す。これにより、パーティ途中で、誰が自分を気に入ってくれるかがわかるシステムだ。フリータイムが始まり、まず最初に7番、そして次は9番と無難に会話をかわした。もうひとりの2番は、他の男からも人気があって順番待ちの列ができている。オレも並ぶべきかと思ったが、すぐそばに誰からも話しかけられずにいるブサイクさんが寂しそうにしていたので、つい同情して彼女のもとへ向かってしまった。そのとき、先ほどスタッフに渡したカードの集計が終わり、各自に結果が伝えられた。なんと、2番と両思いになっている!他にも、年収効果か、4人の女性から好印象を持たれているようだ。我が目を疑った。婚活パーティでこんな上手い展開になったことが、過去にあったろうか? いやない。これはなんとしても次のフリータイムで2番に話しかけねば!
目の前のブサイクちゃんをほったらかしにして、フライング気味に席を立ち、2番の順番待ちの列に並ぶ。並んでるニイちゃん、どうせダメなんだからヨソへ行けよ!司会の声が聞こえた。
「では次が最後のフリータイムです。お話、どうぞ!」
え? 最後? てことは話すチャンスがない! なんだよそれ!ぶ然としたまま、最後のフリータイムは一人きりで時間をつぶし(もうブスと向かい合う気力もなし)、最終投票で、2番、7番、9番の数字を書いて発表を待つ。7と9はムリかもしれないが、2番が当初の想いをそのまま素直に記入してくれればカップル成立だ。しかし結局、なんたることか、2番、7番、9番の3人ともが他の男とカップルになってしまった。納得がいかないとはこのことだ。第一印象では両思いだったのに…。きっと2番ちゃんは、フリータイムで自分のところに来てくれないことに心を痛め、初志貫徹できず、泣く泣く他の男の番号を書いてしまったのだろう。
 このまま帰宅しては、オレにも2番ちゃんにも心にシコリが残る。2番ちゃんと男がすぐ近くの喫茶店に入ったので、店前で待機することにした。どうせ今日はお茶だけで帰るに決まってる。別れたところで、偶然を装って声をかけるとしよう。40 分ほど待ったところで、ようやく2人は店から出てきた。手もつながず、駅のほうへ向かう。たいした進展はなかったと見た。ま、不本意なカップリングなのだから当然だろう。改札の手前で2人は別れた。男が電車に、2番ちゃんは駅ビルのほうへと歩いていく。今がチャンスだ!正面からすれ違う形で、彼女に接近し、声をかける。
「あれ、さっきの?」
「はい?」
「パーティにいなかった? 2番の子だよね?」
「あっ、えっ…」
 めちゃくちゃ動揺している。
「オレもいたの覚えてない?」
「あ、そうなんですか…」
そうなんですか、じゃないだろう。はっきりオレの番号を書いてくれたのに、そうなんですかってのはおかしいだろ。ポケットの紙を取り出し、解説だ。
「ほらこれ、お互いに番号書いてるでしょ」
 一顧だにせず、2番ちゃんは無言で去っていった。まったくワケがわからないよ!杏里ちゃんにせよ、2番ちゃんにせよ、女心というのはどうしてこんなにわかりにくいのだろう。お願いだから、好きなら好き、嫌いなら嫌いとハッキリ伝えてくれ。
とにかく出会いの機会を増やさないことには、結婚などできっこない。40才の大台に乗ってしまっては圧倒的に不利になるだろうから、39才の今のうちにやれることはやってしまわないと。
やはり前回のように婚活パーティがてっとり早いのか。参加者の1割はかわいい子もいることだし。でもな…。男女がガツガツしてる場で出会うという流れが、どうにもカッコ悪いような気がしてしまうのだ。もし将来結婚したとしても、「二人の出会いは婚活パーティです」と胸を張って言えないし。とはいえモテない身としては、ごく普通の生活を送っていても、美女との出会いなどありえない。でもパーティには抵抗が…。
結果、オレが出会いを勝ち取るには、
『男女バランスが極端に偏っているグループに身を置く』
しかないと結論づけた。たとえば、女だらけの手芸部にいる男子部員のような立場になれば、こんなオレでも、その集団の一番の美女をモノにできると思うのだ。
(注・ちなみに学生時代にもその考えのもと、クレープ屋でバイトしたことがあるが、そのときは社交性の欠如のため友人すら出来ず)
では、大人にそんな場はあるのか?大人にとっての手芸部はどこなのか?探しに探しまくったところ、ヨガ合宿というものを発見した。田舎に集まって一泊二日でヨガを体験するものだ。短い期間とはいえ、親近感は増すと思われる。電話をかけてみると、現在のところ参加予定者は女12人に、男は1人だという。オレをプラスしても男2人のみ。こんなハーレム状態で、同じ屋根の下、一夜を明かせるなんて。その場で迷わず申し込んだ。土曜の正午、現地集合場所となっている長野に到着した。企業の保養所のような建物だ。まずは教室で、ヨガや健康にまつわる講義を受けることに。メンバーは、なるほど女だらけで、男はオレともうひとりのデブしかいない。
美女は2人いた。水川あさみ似と千葉麗子似。共に30代前半だろうか。ヨガに関心があるだけあって、体のラインはパーフェクトだ。他メンバーは、おばちゃんやデブ、幸薄そうなメガネなど、どうでもいいタイプだらけだ。つまらない(そもそもヨガに興味がない)講義を終え、ヨガ実践へ。ピチピチのパンツをはいた女性陣が、オレの目の前で尻を突き出して熱い息を吐きはじめた。もちろんオレのポジションは水川あさみの真後ろだ(あいにく千葉麗子は離れてしまった)。
水川さんもまた、ピチピチパンツに胸元広めのTシャツという誘惑ファッションで手足を動かしている。至福の時間だ。
「では次にペアになってマッサージしてもらいます」
ヨガが終わり、ペアで身体をまさぐりあえる時間がやってきた。すぐ目の前の水川あさみへ二歩ほど近づき、ごく自然にペアに…。
「では男性は男性と組んでもらいましょうか。はい、こちらへ」
なにっ!デブ男がニタニタしながらやってきた。くっ、なんでこいつと。しかもこのデブ、ワキガだし!夕方の休憩時間、水川あさみが女性たちと談笑する声が聞こえてきた。「やっと旦那の許可がとれたんだよね」なんのことだかわからないが、旦那がいるとわかって、早々にあきらめることにした。残るは千葉麗子、一択だ。今のところ何の接点もないが、まだまだ時間はある。ゆっくり攻めよう。ヨガと座学の繰り返しで、初日のプログラムは20時に終了した。さあ、いよいよ交流タイムの始まりだ。飲みながらトランプでも楽しもう!と、わざとロビー付近をうろちょろして、交流のきっかけを待ってみたのだが、各自どういうわけか自室にこもってしまい、オープンな場に出てくる気配がない。いるのはワキガのデブ男だけだ。
「疲れましたね」なんだよ、話しかけてくんなよ。
「なんだかボクたち浮いてますよね」オレは浮いてねーよ、お前だけだよ。
「ビールでも飲みますか?」
「うーん、そうしよっか」
ロビーで飲んでれば、そのうち千葉麗子たちもゾロゾロやってくるかもしんないしな。
が、この負のオーラをまとったコンビに寄ってくる女性など一人もいるわけがなく、1時間ほどでしょぼい飲み会は終わり、オレは部屋で眠りについたのだった。
翌日も正午までヨガを繰り返し、全プログラム終了となった。ついに、出会いの萌芽らしきものも生れぬまま、長野を離れるわけである。いったい何をしに来たのだろう。
解散後、千葉麗子が、おそらくここで知り合ったであろう地味女と一緒に歩き出したのを見て、あわてて追いかける。
「オレ、車だし駅まで送ってあげよっか」
最寄駅までは歩くと20分はかかる距離だ。あっさり2人は申し出を受け入れた。どういうわけか助手席に乗りたがらない2人が、後部座席で語りだした。
「また来る?」
「そうだね、でも彼氏がうるさいしな」
ん? いま彼氏うんぬんと言ったのはどっちだ? どっちの声だった?39年も生きていればわかる。こんなとき、必ず期待とは逆の目が出るのがオレの人生だ。彼氏がいるのは千葉麗子のほうだった。ふぅ、どうしよう。手ぶらで帰るのもなんだし、この地味女、東京から一人で来てるみたいだし、こいつでいいか。駅に着いたところで提案した。
「よかったら、このまま東京まで乗っていきなよ」
瞬間、地味コから返事があった。
「お断りします」
驚いた。
「大丈夫です」「悪いんでいいです」
程度の遠慮ならわかるが、ここまではっきりと拒絶されるなんて。しかもこんなに地味で取り柄のない女に!
費用2万5千円の合宿は、ラインひとつ聞き出せないまま、いっさいの収穫なく終了した。身体が柔らかくなった感覚すらない。
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