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女子大の学園祭で見つけた小谷ちゃん。一目で仔リスのような愛くるしいルックスと可愛い笑顔の虜になってしまった。可愛くて、可愛くて仕方ないのだが、正直、性的な対象として認識しているのかどうかは自分でもよくわからないのだ。
学園祭の翌日に友達申請してくれたSNSの彼女のページには、ライブについての感想が写真と共にアップされていた。
『最高に楽しかった。やっぱりライブはいいな』
小谷ちゃん、ほんまに楽しそうに演奏してたもんなぁ。
『お疲れさまでした。カッコよかったよ』
とコメントすると『先輩のようにずっと音楽されてるすごい方にそう言ってもらえるとすごくうれしいです^○^!まだまだヘタクソですけど』
歳くってるってだけで勝手にすごいと勘違いされているが、ここはあえて否定せずにおこう。が、SNSでつながったものの、小谷ちゃんと実際に会うとなると、これはなかなかハードルが高い。なんせ、親子ほどの歳の差だ。(ちなみに彼女、大学1年で18才だった)バンドがらみの機会でないと会ってくれないだろう。うちのバンドなどで主催する次回のライブイベントに参加したいとは言ってくれているが、しばらく開催する予定もない。どうやったら彼女と会う機会を作ることができるのか。さすがに、彼女の大学の先輩で俺のバンド仲間でもあるK子に相談するわけにはいかないし。会いたいという気持ちがどんどん募っていく。小谷ちゃんが夢に出てきたほどだ。夢の中で、俺は一生命個人練習をしている彼女にアドバイスし、よく頑張ったと頭を撫でている。彼女はちょっと上目づかいで嬉しそうだ…。我ながら重症だとは思うが、夢に見たことで一層気持ちが入ってしまった。ほんまに会いたい。早く会いたいぞ!
 そして、現在ただ一人のターゲット、女子大生の元手コキ嬢、トモカのことも忘れてはいけない。彼女とつながる接点は偶然にも会社の同期だった母親のS子。ブサイクで
ガサツなS子と会うのは気乗りしないが、年内には退職の慰労会ということで、一緒に飲もうと決めた。ところが肝心のS子と連絡が取れない。後でわかったことだが、トモカの卒業旅行を兼ねて、母娘でオーストラリアに行っていたらしい。うーんトモカに対するアプローチは年越しやなぁ。なんかこのままフェイドアウトしていきそうで嫌な感じだ。年が明けたら、早めに行動に移すとしよう。話を小谷ちゃんに戻そう。次回のライブイベントを待たずして、彼女と会う機会をどうやって作ろうか? あれこれ思案しながら彼女のSNSでのコメントをチェックしていると、彼女、やっぱり音楽が大好きで、それも今大学のバンドでやっているジャンルにとどまらず、色んなことにチャレンジしたい、レベルアップしたいと思っているようだ。それなら、いっそのこと彼女とバンドを組むっていうのはどうだ? 次のイベントに彼女の大学のバンドを呼んで、なんてまどろっこしいことをするよりも、もっとダイレクトに距離感を縮めることができる。とはいうものの、50過ぎたオッサンとバンドを組みたいと18のコが思うだろう
か?いきなりバンド組もうよと言ったところで断られる可能性は高いだろう。
「私なんて、そんな上手くないのに足引っ張るだけです」とか「K子先輩がいるじゃないですか」と言われるのがオチだ。うまくハードルを下げながら彼女を誘い込む方法を考えないと。仕事中もなんかいい方法がないかと考えていたら、「河内さん、どうしたんですか? 難しい顔して。こんな真剣な顔、久しぶりに見ましたよ」と後輩の女性に
からかわれてしまった。はぁ…。でも、勤務時間まで使って考えた甲斐あって、一つの妙案が浮かんだ。以前、俺とK子と一緒に3人でユニットを組んで、バーやカフェでライブしたことがあるT子が「また気軽なライブをバーとかでしたいよね」と言ってたことを思い出したのだ。T子を誘って、バーかカフェでプチライブを企画する。その際にキーボードのK子の予定が合わないとかなんとか言って、小谷ちゃんにサポートをお願いできないかと頼むのだ。固定的なバンドじゃないってこと、軽めのライブだということ、大学のバンドじゃないジャンルを経験できるということ、この3つの要素があれば、小谷ちゃんもOKしてくれるんじゃないか? 我ながらナイスアイデアだ!ライブをさせてくれる店があるかどうかはわからないが、とりあえず彼女とユニット結成さえできれば、会場については「店の都合で延期になった」とかなんとかいくらでも言い訳できるだろう。さっそくT子に連絡だ。
「あら、河内さん、久しぶりやん。ライブ、いいね! 私がよく飲みにいってるバーに頼めばライブやらせてくれると思うよ」
そりゃ好都合だ。ぜひ店に頼んでみて。
「K子さんとやるのも久しぶりで楽しみやわ」
「いやいや、仕事がめちゃくちゃ忙しいようで無理みたいやねん。他のコ、当たってみようと思って」
もちろんK子のことはでまかせだ。よし! なんとかうまくいきそうだ。あとは肝心の小谷ちゃんにオファーするだけだ。彼女が参加してくれないとまったく意味がない。T子と二人でライブする気なんてまったくないんだから。さっそくSNSで小谷ちゃんにメッセージを送るとしよう。できるだけ参加のハードルを下げつつ、新しい経験についてのワクワク感が伝わるように、何度も何度も文章を推敲してから、送信。さぁ、どんな返事が返ってくるのか? ドキドキするなぁ。
翌日、彼女から返信があった。
「こんばんは、お久しぶりです!バーでライブ!素敵ですね。私にできそうであれば、是非お手伝いさせていただきたいです! どんな曲をするのか、教えてくださいね^^」
よっしゃー! 作戦成功だ。こんなにすんなりOKしてもらえるとは、正直思っていなかった。さっそく選曲も兼ねて、初回の打ち合わせをしよう。やっと小谷ちゃんに会える!できるだけ安心させようと、T子含めて3人で会う予定だったが、T子の予定が合わず、結局小谷ちゃんと二人で会うことになった。あぁ、なんか緊張するな。2日後、梅田のスタバで待ち合わせ。ワクワクドキドキしながら彼女の到着を待つ。あの仔リスのような可愛い小谷ちゃんともうすぐ再会できる!
しかし、やってきたのは色褪せたデニムにダウンジャケット姿、メガネをかけたちょっと田舎くさい地味な少女だった。小谷ちゃんであることは間違いない。でも、あの学園祭で誰よりも輝いていた彼女と同一人物とは思えなかった。SNSのプライベート写真を見た時にも、正直、若干気にはなっていたんだが、これが彼女の本当の姿なのか? だだ下がりのテンションの中、ライブの打ち合わせが始まった。学園祭で誰よりも輝いていた小谷ちゃん。ステージの上でのあまりに愛くるしく可愛い姿に、俺は虜になっていた。一緒にライブをやろうと誘い、あこがれの小谷ちゃんと会うことに成功。その彼女が、今、俺の目の前にいる。あまりにも冴えない、地味な風貌で…。
 うーん、小谷ちゃんってこんな顔だったっけ? 決してブサイクという訳ではないが、正直、並のレベル。スタイルも結構チンチクリンだし。服装が地味だからとか、今日はスッピンだからとかいう次元の話じゃない。別人と言っても過言じゃないレベルだ。なんでこんなことになったんだ。ステージ上できらびやかな照明を浴び、大勢の観客の前でパフォーマンスしているという状況が、彼女を実物よりずっと可愛く見せていたってことなんだろうか。確かにゲレンデで見るスキーウェア姿の女は、3割増しで可愛く見えるってこともあるしな。
 理由はさておき、萎んだ気持ちで〝地味小谷〞との打ち合わせを始める。
「私、同い年位のコとしかバンドやったことないので、今回、結構ドキドキなんです。初めての経験でメッチャうれしいけど、足引っ張るんじゃないかと心配で…」
「そんなん、小谷ちゃんなら大丈夫やって。楽しんでやったらええねん」
 そう言ってる俺が、全然楽しくない。まぁ、客観的に見たら、地味で並レベルに下がってしまった外見とは言え、18歳の女子大生とこうやってバンドが組めて、二人っきりでお茶しながら話せているだけでも喜ばないといけないのかもしれないが…。あまりにも第一印象とのギャップが大きすぎたってことだ。曲は何にする? アレンジは? 練習はいつにする? テンションが下がってしまっている俺は必要事項を淡々と決めていくだけだ。
 でも小谷ちゃんは、あんなのもしたい、こんな曲をこういう風にしたら素敵じゃないかと熱心に話してくる。本当に音楽が好きなんやなぁ。女目当てで音楽を利用している不純な俺とは大違いや。銀縁の地味な眼鏡の奥で目をキラキラと輝かせながら、少し紅潮して一生懸命に話す小谷ちゃんが少し可愛く見えてきた。まぁ、50点から60点になった程度やけど。腹が減ったし、飯でも食べにいく? と誘う。小谷ちゃん、学校の課題もあるから早く帰らないと、と言ってたし、サクッと食って今日はおひらきにしよう。
「お母さんが夕食作ってるかもしれないけど、でも、いいです。もっと河内さんと音楽の話、したいし」
と言ってスマホを触りだした彼女。親に連絡するのか? と思ったら、終電の時間を調べていた。まだ7時やで。そんなにガッツリ行く気なんか? 俺はそんな時間まで60点の彼女を連れまわす気はない。近くのレストランで飯を食って、1時間ほどで解散した。
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