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我が国の離婚件数、実に毎日800組以上が結婚生活に終わりを告げている計算だが、一方でそのうち約160組分もの男女が再婚を果たしているという(厚生労働省の人口動態調査より)
最近の傾向としては、男女一個人の再婚ではなく、子連れ同士のステップファミリーなる形態が流行りで、専門のカウンセリング団体や見合い相談所がかなり繁盛しているようだ。
母子家庭と父子家庭が新たに家族を、これを単純に微笑ましい現象と見るのは早計だ。一度に大勢の他人同士が、共同生活を始めてトラブらないワケがない。ましてや、そこに思春期の少年少女がいれば尚更…。ここに一通の手紙がある。昨年、ステップファミリーの再婚を果たした人物だ。
『私は安藤達郎(仮名)と申しまして、昨年、再婚したばかりのです。本来なら幸せな生活を送っているはずなのですが、お恥ずかしい話、娘や息子たちに奴隷のような扱いを受けておりまして・・・(略)この間も腕の骨とアバラを折られました』
先を読み進めるに従い、浮き彫りになる驚樗の再婚生活。ごく平凡な家庭を夢見た中年男性に待っていたのは、まさに地獄だった。

離婚経験者同士の仲を取り持つパーティーに行ってみた安藤達郎。

女性参加者の大半が子連れですから、それも仕方のないことなのかもしれません。私にはそこに女性としての魅力を見いだすことができませんでした。会が始まって1時間、1人の女性が遅れて会場に姿を現しました。東ちづる似の美人です。男の視線が集中するなか、思わず私は彼女に近づきました。普段、奥手な自分にしては驚くほど積極的な行動でした。
「あの、ジュース飲みますか?」
「ええ、すいません。急いで来たから喉が渇いちゃって」
「実は私、こういうパーティ、初めてでしてね。さっきから1人でボケッとしとったんですわ」
「私も初めてなんですよ〜親戚のオバちゃんがうるさくて」
「ああ、それ、僕も同じです!」
話が弾むのがうれしくて、ビールやワインを相当飲みました。グラスを倒したのも気づかないほどです。すっかり、彼女に心を奪われていたのです。願いは見事に叶いました。パーティの最後、気に入った相手を指名する際、彼女もまた私を指名してくれたのです。夢心地、まさに有頂天。それが悲劇の始まりだったなんて、誰が予想できますか。

当時33才の彩子(仮名)と初めて結ばれたのは、3回目の食事の後でした。実は、それまで子供に隠れて飛田新地などでウサを晴らすことはありましたが、素人の女性を抱くなど離婚して初めてのことです。

その一夜は、天国でした。これぞ名器と言うんでしようか。吸い付くような感じがたまらなくて、5分と持ちません。気立てはいいし、身体もいい。本気で惚れるまでに時間はかかりませんでした。
「うちら、結婚前提って考えてええんかなあ」
付き合い始めて2カ月、彩子が情事の後のまどろみの中で聞いてきました。結婚。彼女に言われ、恥ずかしながら初めて意識しました。考えてみれば、当然のことでしょう。お互い子供もいるいい大人なのです。このまま、体だけの関係を続けていて、将来があるはずがありません。
「怒らないで聞いてもらいたいんやけど.:」
「なんやねん、もったいぶって。何でも話しいな」
「う、うん。実はウチ、子供3人いてるねん。それで離婚も二度してんねん」
さすがに腰が引けました。妊娠線は少ないし、見た目も若い。それまで、子供1人のバッイチという話を疑ったことはありません。ウソだったのか…。なぜ二度も離婚したのか。少し強く問いただすと、彼女は声を細め言います。
「(別れた)2人とも、酒乱で暴力とか色々あって…」
意気消沈した顔に、それ以上の追及はできませんでした。年頃の子供を抱えた者が一つ屋根の下に住めば自ずと問題が生じることは想像に難くありません。しかも、彩子には3人も子供がいるのです。私の家族と合わせたら7人の大所帯になります。

果たして、皆が仲良く幸せにやっていけるものでしょうか。結婚するか、この際きっぱり別れるか。葛藤していたある日、インターネットで「ステップファミリー」なることばを知りました。ステップファミリー子連れ同士の再婚のことです。

やはり、子連れの男女が新たに所帯を持つと、問題が生じやすいのでしょう。支援サイトが多数存在し、そこでは連日、BBSで活発な意見交換が行われていました。ならば、一度専門家の意見に耳を傾けてみようか。

夏のある日、私は彩子を連れ、ある女性カウンセラーの元へ足を運びました。再婚問題に詳しいとの触れ込みでした。平日の昼間だというのに、事務所はカップルだらけ。一様に沈んだ顔をしています。

やはり、みな再婚に踏み切れないのでしょう。そんな姿を見るにつけ、私はわけもわからず腹がたってきました。そこまで将来を悲観的に考えてどうする?恐れていたら何も始められないではないか。

その怒りは自分に向けたものでもありました。彩子を愛する気持ちに迷いはありません。ならば、まずは子供たちに話すのが先決。カウンセラーのアドバイスも似たようなものでした。彩子の一家構成は、少しばかり変わっておりました。
長男の伸二と長女の杏奈が二卵性双生児の17才で、離れた弟・康介は10才の学生。これに対し、我が家の浩史が16才で久美が15才です。思春期だらけの子供を一堂に介して、うまく場が持つだろうか。私の不安は嬉しいカタチで裏切られました。
カウンセリングから数日後。日本料理屋で子供たちを対面させたところ、鍋をギャーギャーワイワィ、仲よくつついているのです。連れ子の伸二に杏奈、康介は行儀よく、我が家の浩史と久美が恥ずかしいほどでした。食事会の後、真っ先に息子の浩史に相談しました。
「あんなあ。あの人が新しいお母さんになってもええか?」
「お父ちゃんがそう言うんやったら、気にせんで結婚せえよ。ええ人そうやしな」
「そうか。ありがとう」
「何、恥ずかしいこと言うてんねん。照れるやんか」
久美にもOKをもらい彩子に伝えると、彼女も子供から快諾を得たとのこと。目出たし!私と彩子は晴れて入籍しました。1カ月後、我が家で新しい家族生活がスタートしました。その際、私は3つの事柄を家族に約束させました。
◎おはよう・おやすみの挨拶をキチンとする
◎家族と一緒に夕食を食べる
◎自分の部屋は自分で掃除する
みな、他愛のないものです。が、だからこそ、守ってほしかったのです。なんせ、私たちは家族なのですから。この規則が子供たちを窮屈にさせたのか、今となってはわかりません。暮らし始めて3週間で最初の綻びがやってきました。
「伸二、杏奈、おはよう!」
返事がないのです。最初は笑いながら返してくれたのに、ぶつきなぼうな顔で私の前を素通りしていきます。それでも、頭ごなしに叱るつもりはありません。年頃の子供、私もそれなりに気は遣っていました。そのうち、杏奈の帰りがだんだん遅くなってきました。高校では部活もやってないのに、戻りがいつも11時。父親として

「杏奈、今何時やと思ってるんや!こんな遅くまでどこをほつつき歩いてんねん!」
「・・・・」
実の子に言うつもりで、本気で説教しても、ことばは返ってきません。逆に優しく諭してみても、態度は同じ。さすがに堪えました。そして、ある夜、決定的なことが起きました。

その日もまた、杏奈は深夜12時近くに帰宅しました。毎晩毎晩、どこで夜遊びしてるのか。不良たちとでも付き合っているのか。出迎えた私を当然のように無視して自分の部屋に戻ろうとする、杏奈を呼び止め、私は言いました。
「杏奈、おまえ、親の言うこと聞く気あんのんか。いいかげんにしろや!」いつになく大きな声を上げた私に、杏奈がボソつと口を開きました。
「生理的に無理。死んで…」
死んで、信じられない言葉に、思わずキレ、私は娘の頬を張りました。そんな侮蔑的なことばが許されるわけがない。その瞬間でした。背中に強烈な痛みが走り、目の前が真っ暗になったのです。気がついたら、私はベッドの上でした。彩子が心配そうな顔でつぶやきかけてきます。
「達郎さん、ゴメンなぁ。伸二、極真空手やってんねん」

そこで初めて、背中の鈍痛の理由が納得できました。どうやら、妹が張り手されている姿を見た伸二が、私に掌底を叩き込んだらしいのです。そこからは地獄でした。
伸二は徐々に本性を表し始めます。最初のころこそ、私に遠慮していたものの、そのうち金髪でピアスやタトゥを入れた、いかにも不良な連中を家に連れ込むようになりました。本人の見た目が、不良然としていないため気がつかなったのですが、伸二は筋金入りのワルだったのです。家族全体から笑顔が消え、とりわけ実の娘・久美の様子がおかしくなりました。目が虚ろで学校も休みがちです。何があったのでしょうか。
「久美、なんでもいいから言うてみ。絶対にびっくりせんから」
「…アタシ、おかされたんや」
「し、誰に」
「伸二君と友達に!」
漠然と怖れていた不安が、現実になっていたのです。実はその2〜3週前、久美のパンツが紛失する事件が度々起きていました。私は一度、その犯行現場を見てもいます。伸二でした。が、情けないことに注意できませんでした。足蹴にされたあのときの恐怖で口が開かなかったのです。しかし、今度ばかりは許せない。思うが早いが、伸二の部屋に駆け込んでおりました。
「お前、久美に何したんや!」
「おっさん、ワレ、誰に口利いとんじゃ。そんなこと知るかい、あの女、頭おかしいんじゃ!」
「オマエ、ええかげんにせんと、警察に突き出すぞ!」
「おう、やれるもんなら、やってみい!」勇気を出して殴りかかりました。が、伸二に勝てるハズもなく、再び、ボコボコ叩きのめされるだけ。悔しくて、情けなくて、涙すら落ちませんでした。
「ごめんなさい。私が身代わりになりますから、あの子を警察に突き出すのだけは、お願いだから堪忍して」
彩子のことばを聞きながら、私は、拳に力を入れることしかできなかったのです。彩子の連れ子、康介の異常に気付いたのは、それから間もなくのことです。毎日のように大きなゴミ袋を学校に持っていく様子が気になり、ある日、勉強机の引き出しを開けたところ、外科用メスや薬品など、大量の医療用器具が並んでいました。彩子に事情を尋ねても、顔を暗くするばかり。イヤな予感は増し、そして的中しました。真夜中、康介の部屋を覗き、私は信じられない光景を目にしました。部屋の中心に、猫がいました。生きているのか。死んでいるのか。グッタリしていていました。と、康介が机の中から例の医療セットを取り出して…。(ま、まさか)身構えたときにはザクリという静かな音が室内に響き渡っていました。猫の喉元を真横に切り裂き、素手で腹を撫でたかと思えば、今度はその中心にスッとメスをあてがい、ズブブブブブ。決壊したダムのように、傷口から内臓がドロリと溢れ出ています。背筋が凍てつき、身体の自由が奪われました。こんなことがあっていいのか…。私は真剣に己の運命を呪いました。しかし、事態はさらに悪化していきます。杏奈ばかりか久美まで帰りが遅くなり、そのうち朝帰りが当たり前のようになっていったのです。むろん、注意はしましたが、相手にされません。すでに私の威厳は地に落ちていました。それこれも、すべては伸二のせいです。
「おっさん、ビール買うてこい!」
たとえ晩御飯中でも、髪の毛を引っ張られ蹴りを入れられました。
「おい、ジャンプも一緒に買うてこいや。ヤンジャンと間違えたらシバくぞ!」
毎日、ボロポロに殴られ、そのうち彩子にまで見限られました。あまりにも情けないと、寝室を追い出されたのです。今、思えば、どんな手段を使っても、伸二を叩きのめしておくべきでした。すっかり笑顔の消えた私は、最後の砦だった仕事にも見放されました。得意先に切られ、従業員も去っていく。そんなとき、地元の駅前でスーツ姿の男性に声をかけられたのです。
「あなた、悩みがありますね?」
「は?」
「霊がついてますよ。除霊しないとマズイですよ」
抜群のタイミングでした。最近のどん底ぶりは、何か理由を付けないと、到底理解できるものではありません。藁にもすがる思いで、私はすべてを打ち明けました。すると、その霊能者とやらは言うのです。
「邪念がついてますね。私でよければ、おはらいいたしますが…」
すぐさま彼を自宅へ招きいれれば、ピタリピタリと過去を当てられました。「昔、飼っていたハムスターの供養が不十分です」「に、庭の端に埋めたのがマズかつたのですか」
「ええ。近所の浮遊霊を呼び集めて大変なことになってます」
除霊代は3日で200万かかりました。冷静な今なら、べらぼうな金額です。が、御札や水晶、結界を張る作業を含めての金額と言われ、そのときの私は素直に金を支払ってしまったのです。
大事件が起きたのは、それからわずか3日後のことでした。
「もしもし安藤さんでっか?お宅の娘さんで杏奈さんと久美さんていてます?」
「はぁ。なにか?」
「おたくのお子さんが援助交際してはりましてね」
ドスの利いた男の声でした。学校の先生とも警察とも思えません。
「ワシがシャワー浴びてる間に、財布持って逃げたんですわ。今から来れますか?それとも警察行きましょうか?」
「ちよ、ちょっと待ってください」
取るものもとりあえず約束の喫茶店へ急ぐと、娘2人がションボリと傭いておりました。正面にはヤクザらしき大男。どう考えてもダダでは済みそうにありません。
「どないするんじや誠意みせんかい」
「す、すいません。今から銀行へ行ってきます…」
結局100万を払って2人を解放しました。
「援助交際をしてバッグを買うぐらいならワシに言え」
落ち込む2人の娘に私は優しく諭しました。100万は大金ですが、これで父親としての威厳を取り戻せれば安いものです。が、しかし、その魂胆は完全に裏目に出ました。威勢のいいことを言ったんばかりに、子供たちはチャンスとばかりに金をせぴってきました。娘たちのバッグや洋服代にくわえて、伸二のバイク代に改造費。ジャブジャブと金は流れ、2千万の貯金が底をつくのも、あっという問でした。皆さんは、今までの話を聞いて、首をかしげるかもしれません。どうして、絵に描いたような不幸が次から次に舞い込むのか。おもしろくするために、適当な話をでっちあげているんじゃないか。そう思われても仕方ありません。いや、これが適当なホラ話なら、どんなにかいいでしょう。私には、さらなる悲劇が待ち受けていたのです。息子の浩史と、嫁の彩子の様子が何か妙だ。ふと、そんな疑念にかられたのは、今年の冬のことでした。食事のときや、居間でくつろいでいると、2人が仲良く話し込んでいます。母親と息子。別におかしくはありません。当時私は、彼女の寝室を追い出されたまま隣の書斎で寝泊りしてたのですが、夜になると人の気配を感じるのです。しかし、まさか。浩史は、家族の中で唯一、私に優しいことばをかけてくれる子供です。その浩史が…。悩んだ末、私は浩史にさりげなく聞いてみました。
「おまえ、最近、母さんと仲いいなぁ?」
「うっさいなぁ。付き合うてる彼女のことで相談に乗ってもらってるだけやんか」
そのことばを、いったんは信用した私でした。が、いざ、寝室に聞き耳を立てると、やはり怪しいのです。端ぎ声は聞こえてないのですが…。翌日、彩子の寝室に忍び入った瞬間、確信しました。部屋中に男の匂いが蔓延しているのです。もはや、疑いようがありません。
「おまえ、何やっとんのや彩子と…おまえ」
その晩、玄関先で問いつめる私に浩史は冷たく言い放ちました。
「うっさいわ!」
もはや私に家族などいない。このまま失院するか、命を絶つか。そこまで追いつめられた私に、悪魔のような音が聞こえてきました。
「だ、ダメ〜ヒロちゃん、私、もうイッてまうよ〜」
「アカンよ抜いてまうで」
「あ、ああああん」
関係がバレた以上、遠慮はいらないと思ったのか。浩史と彩子が毎晩のように身体を貧りあっているのです。一度は包丁を手にし、寝室の前に立ちました。しかし、できません。私には殺す勇気も死ぬ勇気もないのです。
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