にしても、彼らはなぜ、こんな悲惨な生活を送ることになったのだろう。
ある日、瑠美子と外出した際、さりげなく尋ねたところ、驚くべき答が返ってきた。
「もともとウチら東北に住んでてさ、横浜に引っ越してきたのは最近なのよ。ていうか、ウチら7人全員、父親が違ってるんだよね・タネ違いってヤツ?」
何でも、もともと母親の安代は恐ろしく男にダラしない性格で、誰彼かまわず体を許し、避妊もろくろくしなかったらしい。
「三男拓也は、お母さんの実の兄との間にできた子供なんだよ」
寒気がしてきた
実は右足の指が7本あった
近親相姦で生まれた子は、奇形になるケースが多いと曾うが、まさか…
「別れた男の人たちは全然、援助してくれない」
「子供の学校のこととか、お金のこととか、大変なことは多いけど、あのときよりはずっと幸せだよ・少なくとも、殴られないしさ」
ドがつくほどの貧乏くらしにいい加減嫌気がしないのか。
そこで瑠美子がスーパーのパートに出たものの、対人関係がうまくいかず、2日でクビ。やむなくオレは、少ない給料の中から、月2万円ほどの生活費を入れることにした。
悲劇はさらに続く
知り合いが、脅され、家族の居所を明かしてしまったのだ。
何でも、本人から、明日こっちに来ると、電話があったらしい(沢田家に電話は無く、緊急時は近所の知り合いが取り次いでくれていた)。
まったく厄介な話で、関わりたくもない。
が、瑠美子が懇願するように言うのである
「私たちだけじゃ恐いから、一緒に立ち会ってほしいの」
冗談だろ
頼める人がいないの。お願い、この通り
涙を流しながら頭を下げられ、断れなくなった。仕方ない。ここは腹をくくろうではないか
当日、川原はリンカーンに乗って現れた
助手席に中年女性が1人。現在の妻らしい。にしても、厳つい男である。
緊張で体の震えが抑えられない。
見知らぬ顔がいることに気ついたのだろう、川原がオレに聞いてきた
「キミは?誰?」
『初めまして。瑠美子さんの恋人です。いま一諸に住ませてもらってます」
「ふーん・よろしく」挨拶を終え、川原を家に上げる。さあこれからどんな展開になるのか。まさか、いきなり暴れたりしないよな
果たして、不安は裏切られる。川原は、まず一家に深々と頭を下げた。
「非礼をどうか許してほしい」
思いもしないことばに、とまどいを隠せない家族。
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