
初めて出会いカフェという業態が登場したのは、今から15年ほど前だった。
マジックミラーのこっち側に我ら男客。向こう側には素人の女客。両者が1対1で値段交渉し、条件が合えば外出する。この人身売買のような斬新なシステムに男たちは狂喜した。乱舞した者もいるかもしれない。
あのころは、すぐお上の手で潰されるだろうと予期したものだが、どっこい15年経過した現在も絶賛営業中である。
中でもキラリは強い。東京だけで数店舗あって、コロナだろうが雨だろうが台風だろうが、いつも男女ともに客が入っていると聞く。
本日は、悪所であると同時に天国でもあるキラリを案内しよう。
平日午前11時。エレベータで雑居ビルの5階へ。受付で入場料(2200円)を支払う。初めての人は入会金(2200円)も必要だ。
お金を払ったら男部屋へまっすぐ向かおう。カーテンを開けて中へ。
男ルームの広さは、バドミントンコート一面分ほどか。
いや、バレーコートぐらいか。
どっちにしろ、さほど狭い印象はない。むしろ特徴的なのは薄暗さだ。悪いところに来た感がプンプン匂ってくる。
部屋の東西南北すべてはマジックミラーになっていて、その向こうの壁沿いに、女の子が並んで座る形になっている。
現在、ミラーの向こうでは2人の女性が離れて座っている。1人はスマホ、1人は漫画に夢中だ。女部屋はギラギラ明るく、韓国やタイの売春宿のひな壇を連想させる。
一方、こっち側の男客は5人ほどいるが、みんな椅子に座ってスマホを熱心に眺めるだけだ。女側には目もくれない。
我々も座るとしよう。どっこいしょ。
落ち着いたところで、遊び方を説明する。
あせらなくていい。この店には何時間いてもかまわないのだ。ずっとここに座っててもいいし、外出してメシを食って戻ってきてもいい。なんなら、別の店舗を巡ってもかまわない。2200円でひた
すら遊びまくれるのは、ヒマなスケベ男にはありがたい。
では本題。単刀直入に言えば、ここは気に入った女の子とセックスか、食事やカラオケをする場所である。
もちろん何をするにも小遣いは必要だ。見知らぬオッサン相手にタダでそんな楽しいことをさせてくれる女など、令和の日本にはどこにもいない。平成にもいなかった。どいつもこいつも、カネ、カネ、カネだ。
要するにいま我々がいるこの空間は、買われにきた女と、買いにきた男が、マジックミラー越しに対峙している状態なのである。
この光景、女がプロの売春婦ならばまだしも、双方が一般シロート客同士というのは、世界的にもかなり珍しいシステムなのではないか。
さきほど、カネカネと、現代女性を批判した私だが、このように堂々と素顔をさらして売春できるやまとなでしこの根性は、なかなか見上げたものだと思う。
さて、このような素人同士の売買マーケットではあるものの、システムは男女対等ではない。自ら動けるのは男だけで、女は指名されるのを待つのみだ。
男側は気に入った子がいれば、入口付近のボードに貼ってある当人のプロフィールカードを手に取り、店員に手渡す。
すると、別室のトークルームで10分間だけ2人きりになれるので、あれこれ交渉する。
もし交渉が成立すれば、一緒に店の外へ出て(男は連れ出し料が必要)、その後は2人の自由だ。カラオケならカラオケ、セックスならホテルへ向かう。
と、あれこれ書いてきたけれど、もっとシンプルに、
「サイトを通さないパパ活の場」とでも言ってしまえば早いか。ご飯の人はご飯、セックスの人はセックス。同じ目的の異性を探す場所だと理解すればわかりやすい。
では、こんなところに座ってないで、実際に女の子とトークしてみよう。とりあえず今日はセックスもご飯もしたくないので、あくまで冷やかしになるけれどまあいいでしょう。
ただ、この時点で勘のいい男性ならば気づいていらっしゃるのでは?
先客の男たち5人が見向きもしてないってことは、この子たちには何らかの欠陥があるのではないか
と。
容姿がマズイから、目的が合致しないから、料金が高いから、などの理由が考えられるが、もうひとつは、すでに過去に買ったことがあるから、というのもあるだろう。常連ならば普通にありえることだ。
むろんそれは彼らにとっての欠陥であり、私には関係がない。せっかくだから、マスク越しにもカワイイと思えるほうの子とトークしてみよう。
店員にカードを渡して、トークルームへ。2人掛けの狭いソファだけのスペースだ。
遅れて女の子がやってきた。
「よろしくお願いしまーす」
と言いながら、隣にちょこんと腰掛けてくる。
この号が出るころもまだコロナは続いているだろうから、アドバイスしておく。最初の段階で少しだけでもマスクは外してもらうべきだ。
「少しだけお互いにマスクはずそっか」
「あ、はい」
口元が見えた。うん、普通にカワイイ。
ちなみにこっちの口元はたいして見てくる様子がない。男の容姿などどうだっていいのだろう。銭さえくれれば。
で、顔が気に入れば、次は内容の交渉である。
「俺、今日はエッチしたくて来たんだけど、そういうのやってる?」
「あー、私もそれなんで」
「希望はいくら?」
「いつも3はもらってます」
ここでようやく、彼女が売れ残っている理由がはっきりした。多少カワイイとはいえ、この程度の容姿の子とのワリキリに3万出す男はそうはいない。
冷静に考えてほしい。
現時点で2200円を払っていて、連れ出しにも同額がかかり、さらにホテル代を5千円と見積もれば、合計4万近くの出費で彼女を抱くことになるのだ。しかもどうせ一発こっきりで。下手すりゃマグロかもしれないし。
「じゃあ、他の子、探すわ」
「はい、わかりました」
これでトークは終了だ。なにも長々と10分話す必要はない。また男部屋のイスに座て、ぼんやりと、男らの顔ぶれを眺める。
明らかに60代であろうおっさん。あの人、勃起するんだろうか。するからここに来てるんだろうけども。さっき私がしゃべった3万円ちゃんのパンツを、下の方から必死で覗こうとしてる兄ちゃんもいる。いい試みだ。
さてこうなると、新たな女性客を待つしかないので、あまりに退屈だ。いったん外で昼飯でも食ってこよう。午後、店内に戻ったら、やけに活気にあふれていた。
女性ルームには7人ほどいて、男側も10人を超える盛況ぶりだ。
マスクのせいか、女性のレベルが高く見える。冷やかしで順番にしゃべってみよう。
──ひと通り話してみて、2022年春の現状がわかってきた。どうやら、誰が見てもカワイイ子のワリキリは3万、そこまででもない子が2万というのが相場のようだ。ひと昔前に比べ明らかなインフレ傾向だ。原油価格の高騰よりも深刻な事態である。
それでも外出が決まって出ていく子も、いるにはいる。今日の私は冷やかしだが、絶対にヤル気で来た男性なら2万3万ぐらい出すのだろう。
このあたり、新興宗教の狂信的信者にも似た素人信仰と言うしかない。フーゾク嬢ではないという、その一点のみを信じて高い金を支払っているわけだから。
午後3時、この店が最も沸き立つ瞬間がやってきた。
カワイイ新規が来たのだ。ベテラン常連も、新人会員も、すべての男が目の色を変えてトークしたがる女、それが「新規」だ。
たったいま入会したばかりの、したがってまだ悪い色に染まっていない女に、「わしが初めての客になるんじゃ!」と意気込む男らの多いこと。さらに容姿も良ければ、競争率は高まる。
店員が声をあげる。
「この子とトークしたい方、じゃんけんお願いします」
大のオトナがわらわらと数人集まった。最初はグー!
と声を張り上げ、勝った者はガッツポーズだ。大人の男がこんな真剣にじゃんけんする場面、日本中ここだけでしか見られないのではないか。
★本当に誰も彼もがワリキリしているのか。
その証明のために、ここでちょいと、外出する男女を数組、尾行してみよう。
1組目、男がファミマで金を下ろしてからラブホへ。
2組目、まっすぐラブホへ。
3組目、まっすぐラブホへ。
キリがないのでここでやめておく。
なお、先ほどの新規ちゃんは、この1組目に相当し、1時間もしないうちにまた女性ルームに舞い戻っていた。悪い色に染まってないどころか、1日で複数の客をとろうと目論むヤリ手の女性だったのだ。恐ろしや。
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