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某所に1軒の住宅がある。
3階建て、鉄筋づくりの立派な家だ。不審な点などどこにもない。
しかし、この家を離れたところから俯瞰してみると、ガラリと印象が変わってしまう。 
実はここ、日本一のソープ街、吉原のはずれに位置し、問題の家は、2軒のソープランドに挟まれるようなカタチで建っている。 
ソープ、民家、ソープ。見事なまでにシュールな光景だ。 
さっそく突撃しようとしたところ、バーサンの乗った自転車が家の前に停まった。住人らしい。
「すいません、この家の方ですか?」
「そうですけど、何か?」 
気の強そうな視線が返ってきた。歳は60後半くらい。いかにも下町のちゃきちゃきキャラといった感じだ。
「私、近々このあたりに引っ越してくる予定なんですけど、このあたりの治安について教えてもらえると…」 
こちらが言い切る前に彼女が口を開く。
「ああ、ソープランドがたくさんあるからね。でも安心して。治安はすごくいいですから」 
え、そうなの? 意外だ。ソープ客だけでなく、昼間から酔っ払ってるおっさんもけっこう歩いてるのに。
「昔から吉原はね、こういう街だからこそ、地元の人に迷惑をかけないよう気を遣ってきたの」 
なるほど、わかる気もする。
特に今のご時世、地元民を本気で怒らせたら、吉原そのものが消滅しかねないもんな。共存の精神ってやつだろう。
「あの、ついでに聞きたいことがあるんですけど」
「はい、どうぞ」
「ご自宅がソープランドに挟まれてるじゃないですか。それについてご不便とかないんですか」
「うーん、特にないかな」 
この家は彼女の実家であり、すでに何十年と住み続けている。
だから、たまに酔っ払ったソープ客が間違って家に入ろうとすることはあっても、いまさら気にならないと彼女は言い切る。
「あ、でもね」 
思い出したように声が上がった。
「うちは娘が2人いるんだけど、中高生くらいのときは恥ずかしがって友だちを家に呼びたがらなくてね」 
わかるわかる。やっぱ、年頃だと恥ずかしいもんな。
「友だちの親も、うちにはあまり行かせたがらなかったみたいね。まあ、そういうところはちょっとかわいそうだったかな」
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