
彼女からは週イチくらいのペースで『こんにちは、お仕事忙しいですか?』といった感じでLINEが届く。間違いなくラウンジの営業メールだが、それでもあかねちゃんから連絡が来るとうれしいもんだ。
たわいもないコミュニケーションに終始し、俺から『またご飯でもどう』って話にはならない。間違いなく同伴になるからだ。
サラリーマンの身分じゃ、あんな高い店に通いつめることなんてとてもできやしない。接待費で落
とせるご時世じゃないしな。
5万円コースじゃどう考えても月イチが限界だ。
青臭い考え、かつ負け惜しみだと思うが、仮に金にものを言わせて落とせたとしても、あまりうれしくないだろう。
やっぱり俺はあかねちゃんを、客とホステスという関係じゃなく口説き落としたいのだ。
となるとここは、一か八か、あかねちゃんにはっきりと新地に通う甲斐性がないと伝えた方がいいんじゃないか。
それで彼女と会えなくなるなら、結局無理だってことだ。その時はきっぱり諦めよう。
しばらくして、あかねちゃんからLINEがきた。
『もうすぐクリスマスですね。お仕事いつまでですか?』
やはり営業メールにしか思えないよな。
『28日までやで。あかねちゃん、クリスマスは?』
『クリスマスはバイトです(涙)学校は冬休みですし、バイトも今週までですよ』
バイトってラウンジのことね。
『クリスマスはイベントもしているので、よかったら来てくださいね』
『そうか。また行きたいけど、高くてそんなには行かれへんわ。ごめんね』
『いえいえ、全然いいですよ。ほんまに高いですもんね。私も最初びっくりしました』
甲斐性がないことは伝えられた。さあ、どうなる? 軽く探りを入れてみるか。
『来週以降、休みにどっか行くとか予定あるの?』
『全然予定ないです。ユニバは来週もまだクリスマスやってるんで行きたいんですけどね。パス持ってるのに全然行けてないので』
『俺もユニバ、長いこと行ってへんな。一緒に行けへん?』
『行きます! 来週はいつでも行けますよ!』
おぉ、思いもよらない展開だ!
ダメ元で誘ってみただけなのに、あかねちゃんと年末ユニバデートが実現するなんて夢みたいだ!
気が変わらないうちにすぐに日を決めよう。
29日以降は仕事もないので午前中から丸一日デートできる。
それから約束の日まで、ウキウキしながら過ごすことができた。同伴でもなく、俺が上客にならないことも分かったうえで、60近いオッサンとUSJで一日デートしてくれる。やっぱりこれは1%の奇跡だったんだ。
クリスマスのプレゼントは持っていった方がいいのかな?
いやいや、当日USJで買った方がいいやん。USJの後はどこに行こう…。
想像するだけでニヤケてしまう。
そして待ちに待ったユニバデートの日がやってきた。
酒も飲みたいので車ではなく、ユニバーサルシティ駅で待ち合わせする。
「シンサクさん」と後ろからあかねちゃんが声をかけてきた。ジーンズにモコモコのダウン姿。
カジュアルだが、可愛い。花屋のあかねちゃんを思い出した。
ラウンジのエロい服装もいいが、やっぱり俺はこっちがいいな。
「混んでるかな?」と言いながら二人一緒にUSJのゲートに向かう。幸せやなぁ。
やはり冬休みとあってUSJは賑わっていた。
人気アトラクションはかなりの待ち時間だ。
よし、ここは待たずに乗れる『エクスプレスチケット』を購入しよう。
結構値は張るが、今日は二人でUSJを満喫したい。
いくつかのアトラクションの後、レストランで昼食。午後も時間を気にせずにパーク内を隅から隅まで歩きまくる。「たのしー!」と無邪気に喜んでいるあかねちゃんは、やっぱり二十歳過ぎの可愛い女のコだ。俺も彼女となら、歩いている時間も待ち時間も楽しくて仕方がない。
夕方になり、だいぶ寒くなってきた。
ニンテンドーワールドに向かう道すがら、あかねちゃんは「寒いですね」といいながら俺の腕にしがみついてきた。
うわぁ、ドキドキする。付き合い始めの学生の初デートのようなドキドキ感だ。
この時間がずっと続けばいいのに。
あかねちゃんのこの態度、俺に対して少なからず好意があるとみて間違いないんじゃないだろうか。だいぶいい雰囲気になっているので、もっともっと距離を詰めていきたいところだが、焦りは禁物。夕食、そしてお酒を飲んで徐々に盛り上がっていこう。
最低でも今日はキスまでは持ち込みたいところだ。うわー、緊張するなぁ。
「晩御飯、どうする? パーク内で食べる?」
「その前にお土産を買ってもいいですか?」
うん、いいよ。俺もあかねちゃんになにか買ってあげたいしな。
ショップであれこれ悩んだ末に、「よし、これにしよ」と結構な数の可愛いキーホルダーをかごにいれたあかねちゃん、友達に配るのか?
「あ、これお店の人たちへのお土産です」
なんか少し嫌な予感がしてきた。もしかして…。
「そうなんです。今日来られなくなったコがいて、急遽代わりにKに入らないといけないんですよ」
なんてことだ。目の前が真っ暗になっていく。前回感じた失望感の比じゃない。
「シンサクさん、どうされます? 今日むちゃくちゃ楽しかったので、もっと一緒にいたいです」と俺を見つめるあかねちゃん。
あぁ、目の前にいるのは、『花屋のあかねちゃん』じゃない。『ラウンジのあかね』だ。
情けないことに、俺はあかねちゃんともっと一緒にいたいという気持ちを捨てきれず、USJで軽く夕食を食べ、一緒に新地に向かうのだった。
さすがにほとんどの会社が休みに入っているので、店内は空いていた。
これじゃ、あかねちゃんを代わりに入れなくてもよかったのに。
いや、待てよ。今日USJからの流れで俺を連れてこれそうだったので、あえてシフトに入ったんじゃないのか?
本当のことはどうでもいい。
甘酸っぱい夢から覚めてしまった俺は、色っぽい服に着替えて横についたあかねちゃんと話しても全然うれしくなかった。
時間が経ち、「シンサクさん、お時間なんですけど、どうされますか?」と訊かれたので、迷わず店を出た。

あぁ、でも全然飲み足りない。シラフじゃいられない。今日はもっと酔いたい気分だ。
その後、適当にバーに入り、思いっきり酒を飲んだ。その後の記憶があまりない。気がつけば、どこかでぶつけたのか、こめかみから出血し、血だらけゲロまみれで自宅に帰っていた。今だに頭の痛みが引かない。心も痛い。
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