
思ったことがあるハズだ。
ラブホの隣室でイャラシイことに耽るオンナの端ぎ声を。
あるいは、アパートの顔見知りカップルが深夜、いかなる睦言を交わしているかを。
壁一枚隔てた隣部屋での密談。
悪趣味だとわかっちゃいるが、これをこっそり盗み聞くことほど、楽しいものはない。
ただ、だからといって、コップだの、聴診器だの使っていては話にならない。当たり前だが、いまどきどんな建物でも、ある程度の防音加工は施されているというものだ。
そこでコンクリートマイクの登場である。
文字通りコンクリート壁の向こう側の音声を特殊な集音マイクで拾い上げるという優れ物で、昔から、探偵の必須道具として重宝されているんだとか。
硬いコンクリの壁が筒抜けになるくらいなら、どんな材質でも問題なく聞こえるに違いない、多分。
数あるコンクリートマイクの中でも感度バッグンと言われる機種を使って、その実力の程を試してみよう。
マシン本体の大きさは、縦7センチ、横5.5センチ、厚さ2センチ。ちょうどタバコの箱を一回り小さくしたようなハンディサイズである。使用する際は、これに付属のイヤホン、集音マイクを取り付けるだけなので、どんな機械オンチでも簡単に扱える。
では、実践に移ろう。盗み閉きしたい場所といえば、やはり一番はラブホだ。それもなるべく、音が拾いやすいよう壁の薄い、古い造りのものがよろしい。
おあつらえ向きの物件を新宿で見つけた。パッと見、わざわざコンクリートマイクを使わずとも、音が漏れ聞こえてきそうな件まいだ。
部屋に入り、待つこと、右隣室のドアがガチャンと閉まった。さすがは金曜の夕方である。こんなポロ屋でも、早い時間から客が入るらしい。
さっそくカバンからコンクリートマイクを取り出す。さて、どこにマイクを当ててやろう。
あちこち部屋の中を歩きまわった末、トイレの壁を選んだ。隣室に面している上、材質がプラスチックなのでかなり薄い。さてさて、どんなのが聞こえてくるんでありましょうか。スイッチオン。
耳に飛び込んできたのは、不快なノイズだった。何かの物音というよりは、マイク自身の雑音である。つまり、トイレの向こう側からはナニも聞こえていないということだ。
どうなっとんじゃ
場所を変え、今度はテレビに面した壁にマイクを当ててみる。
材質は厚めのベニヤで、表面には安っぽい壁紙が貼付いている。
またしても同じノイズ。その後も引き続き、いろんな場所で試してみたが、結果は変わらない。おいおい、いきなり手詰まりやんけ。改めて説明書を読んでみよう。
壁が中空構造の場合、中間のすきまの部分で音声振動が衰退してしまい、マイクの能力がじゅうぶんに発揮されなくなります。柔らかい壁材も適しません。
柔らかい壁材。どうやら、プラスチックやベニヤの壁は、音が反響せず逆効果だったらしい。
だが、もっともイタいのは、壁がNGだという点だろう。普通は鉄筋であれ、木造であれ、壁と壁の間にスキマがあるのが一般的で、そうなってない建築物の方が珍しい。
翌、別のホテルにチェックイン。今回は、前の反省から、ゴージャスな鉄筋造りのタイプを選んだ。《中空》問題は未解決のままである。
結果はまたしても惨敗だった。
どこにマイクをあてても、聞こえてくるのは例のノイズだけ。
場所によっては、室内の冷蔵庫のファンや水道管の音が爆音でとどろき、鼓膜が破れそうになる始末だ。ダメか…。
ん、待てよ。隣がダメなら下の部屋はどうなのか。鉄筋建築では、床のコンクリが一枚岩になってい
る場合が多いと聞く。
もしや。
『ん……・あ………』
「……はあ…う……』
予感的中。床にマイクを押し当てた途端、男女の声らしき音がかすかに聞こえてきた。さらに鮮明なセックス音を聞くべく、カーペットをめくり、剥き出しのコンクリヘ直当てすると、
「あんあんあんあん!」
「はあはあはあ、メグ、メゲ」
す、すごい。相変わらずノイズがウザいが、十分堪能できる。
「ねえ、もうイクよイクよ、ここに出していい?」
『はあはあ、ああ-ん、いいよ、出して出して』
『イクよ、ああ!ああ-つ!」
顔か、腹か。まさか中ってことはないだろうな。いったいキミ、どこに出したというのかね。
すっごく気になるんですけど!
結局この日は、夜中まで延々居座り、計2組の盗聴に成功。
心ゆくまで、人様の密かなエロ音を堪能したのであった。いや〜タマらんな、ホンマに!
壁より床。コツがわかったところで、ドンドン行こう。
お次のターゲットは、我が自宅マンションだ。実は、ここ数カ月間、オレは階下の部屋に住む大学生らしき若者に注目していた。
恐らくバイト先かなんかで見つけた彼女と同棲を始めたのだろう。あやつ、マンションの玄関で見かけるたび、手足のスラリと長い、モデルのようなイイ女を自慢気に連れ歩いているのである。
んでもって、絶対毎晩、ズコズコやっているに違いないのである。
クッソ-羨ましい!
妬ましい!せめて盗み聞きくらいさせてもらっても、文句はあるまい。
午前0時を過ぎたあたりで、自室の地べたにマイクを当ててみた。
いくらヤングでも、もう帰宅しているハズだ。と、
『…って一言ってんの。てかさ、マジで出川ってムカックよれ…』
松田聖子のような、鼻にかかった女の声をキャッチした。例のモデルちゃんだろう。
ただ、先のラブホと比べ、かなり音声が聞きづらい。このマンション、床が2重構造なのか?
『あのさ、もう寝ようよ。オレ……早いんだよ」
「いじゃ〜ん、もっとかまってよ。昨日も………キャハハ』
「止めるよ、どこ触ってんだよ。起きれなくなっちゃう……ははは、パーカ」
「かっちゃん、ムカつくぅ。いいよ、もう絶対してやんないだから:::で知ってるし』
『はいはい、わかったわかった。……だよ。おやすみ」
ってもう終わりかい.オマエら若いんだろ?ちゃんとセックスせい、セックスを!他にも、いろいろな場所でコンクリートマイクを試したので、ここにその成果を挙げておく。
ラブホ&マンションの部屋の扉(鉄製)←グッド
車のボディ←グッド
木造アパートの壁&床←パッド(コップを使った方がはっきり聞こえた)
ガラス窓&電話ボックス←ベリーグッド
交番の外壁←グッド
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