男に騙され風俗に堕とされた女

一刻も早くお金を作らなければ。頭をひねくり回し、必殺の裏技を開発した。プレイ中に時計を進め30分コースのところ20分でベルが鳴るようにセット、延長料金3千円を自分の財布へ仕舞い込んだ。 10分だったらギリギリごまかせる時間だし、最後までイカないで止める客はいない。けど、3千円じゃタカが知れてる…。

「あのお、私、本当は18なんですけど本番しませんか？」

覚悟を決め、そう客に持ちかけたのはt暮れだった。懐を見て、プラス2-3万でゴムH。店で一番若いのが受けたのか、年末年始に40万を荒稼ぎした。すぐさま銀行から口座に送金する。

常々お金は自分で持つなと洋人に言われていた。私は未成年の上、睡眠薬を常用してる。万一、警察に職質でもされたらヤバイ。

「それで大金持ってたら、親を呼ばれたり大事になるからな。市村さんがそういうトラブルだけは絶対に避けろって」

洋人は自分の活動を辞め、市利の下で働き出し、一緒に私を売り出すのだと張り切っている。

彼らの期待に応えるため、私はせっせと市村の口座に送金し続けた。

千葉のソープで住み込んで働き出す

「ちょっと気分転換しよう。明日、千葉に行くから準備しとけよ」

出張先の洋人から電話が人った。

「え、千葉？」

「同じ店に長くいると客にも印象残しちゃうだろ」

そうか。デビューした後、ヘルスで本番してたなんてことがバレたら大変だもんな。翌昼、店に挨拶するヒマもなく洋人と一緒に東京駅から特急くろしおで房総半島へ。某駅で下りる。

と、ロータリー脇の喫茶店で市村さんが待っていた。

「ご無沙汰してます」

挨拶するなりポロポロ涙がこぼれた。

「まだ弱いな」

風俗から芸能界人りするコは間の人たちが思うより多く、みんなが通ってきた道だ。なのに何故これぐらいで泣くんだ。

こんこんと心構えを諭された。市村は30分ほどで帰り、人れ替わりにー人の男が現れた。

「へへへ、上玉ですね、え。このコならナンバー1もいけるんじゃないっすか」

「よろしく頼むよ」

洋人は、ニヤニヤと脱め回すような目つきのオヤジに私を紹介し車に乗り込んだ。着いた先はソープランドだった。 ……。そっか、ヘルスより儲かるもんな。隠れて本番するのはキツイって愚痴ったから洋人が考えてくれたんだ。よし、心機一転、頑張るか。

そこは総額2万6千円の高級店で、バックされる金はー人につき1万2千円。寮というか、離れのような部屋に住み込みだ。その日のうちに店長の講習を受け、店に出た。

新人というだけで5人、客が付いた。あーあ、ソープ嬢か。親が知ったら悲しむだろうな。

深夜、自室に帰ると自然に涙が湧いてきた。

我が家となった狭い部屋は布団を敷けばいっぱいだ。見れば小さな鏡台の上に1枚のメモが。

今日は大変だったでしょっ。ご苦労さまでした。仕事で東京に帰りますが、僕たちの将来のためにもしっかり頑張ってください。ゆつくり寝なさいね

洋人の女の子みたいな丸文字の上に涙がシミを作る。

そうだ、私は早くお金を稼いで歌手になるんだ。メソメソしてる場合じゃない。

腹筋50回×2セットして、布団に入った。

仕事が終わり、4畳半の自室に戻ると、涙とともに疑問がわき上がる。

「本当に歌手になれるかな？」

自分の夢のために働いてるはずなのに、知らない町で男達と肌を合わせる毎日は確実に精神を消耗させた。年上の同僚たちは18才でソープに勤める私を可愛がってくれるが、仲良くなってはイケナイと自分から一線を引く。支えは、洋人からの電話だけだった。

「オレは自分の才能ないのわかったから、将来、レイちゃんのマネジャーをやれるよう修行してるんだし。一緒に頑張ろうぜ。市村さん、頑張ってるって褒めてたよ。声を出す練習になるから演歌を歌えって」

市村の言いつけどおり、ストレスが溜まるとカラオケボックスに駆け込み「ブランデーグラス』から「津軽海峡冬景色」まで、ー人で演歌を歌いまくった。

洋人に負けないくらい体を張って頑張ろうー仕事のときは頭をからっぼにして…。少しでも考えると気が狂うと思うから。そうなったらどうしようもないでしょ。男はみんなおかねだと思って頑張れ

日記には威勢のいいことを書き連ねたが、正直、当時のことはよく覚えてない。

タ方から深夜までは控え室とプレイルームを往復し、後は睡眠薬で眠るだけ。送金額は最初のうちこそメモしていたが、200万を超えた時点で止めた。

おねーあゃん、編されてないよね？

7月末、突然、洋人から電話が入った。明日、札幌に行くという。早朝、駅で洋人と待ち合わせて東京へ。そのまま特急で北を目指した。まるで夜逃げだ。

「言ったろ、１つの店に長いこといると印象残しちゃうって」

そうだ、何のためにソーブで働いてるか忘れるとこだった？

電車が札幌に着くとススキノへ。タウン情報を買って片っ端から電話をかけるが、暗黙のルールでもあるのか18といった時点で断られた。 30軒ほど問い合わせ、やっと面接にこぎつけられたのは総額ー万3千円ほどの格安店だ。

「今から来れる？」

「はい」

と、洋人が受話器を取り「おたく稼げます？」と念を押す。

それが店の人には衝撃だったらしい。事務所に出向くと、店長が心配そうに尋ねてきた。

「おねーちゃん、大丈夫？さっきのは誰？まさか騙されてるんじゃないよね。たまに芸能界に入りたいってこの仕事するコがいるんだよね」

「私が稼げるとこ探してるって言ったから彼氏が…」

笑って答え、その場で採用になったが心臓はバクバク鳴っていた。洋人が騙す？何言ってんだか。だって洋人も私のために一生懸命やってくれてるよ。

洋人にTELしてみようかな、こんなこと質問されたんだけどって。

……ダメダメ。そんなこと口にした時点で「信用できないなら止めろ」って言われるに決まってる。そしたらいままでの努力が水の泡になっちゃう。どっちにしろ、ここまできたらやるっきゃないよ。何も考えず、ただひたすら働くことにする。その点、格安店はピッタリのとこだった。食事する時間もないほど忙しく、悩むヒマなどない。それでも体重は減らないのが困っちゃうけどね。

洋人は夏風邪をこじらせて入院したそうだ。タチが悪いのか、長引いてるようだ。電話をするたび、電源が入ってませんのアナウンスが流れるだけ。

ススキノに来て2カ月。レイコは19才になりました。洋人からおめでとうコールもないし、ーカ月も会っちょらん。それどころか誰もプレゼントをくれんのだ。一番のプレゼントは明日にでも芸能活動ができるようになることだよお。でもま、いいか。ススキノに来て、このま、いいか、が多くなりました

この頃は、日記に愚痴をこぼすのが唯一の慰めだった。

シャワーを浴びてるうあカミソリに手が…

9月が1０月になっても洋人から電話は入らず、私は店を休んで1人踊りに行く日が多くなっていた。「騙されてるんじゃないよね」

あの店長の一ロ葉が頭から離れない。東京へ行って市村に会い、ハッキリさせた方がいいとわかっていた。

が、1日延ぱしにするうち街は小雪がちらつく季節になった。

朝から寒く、前夜ガブ飲みしたジンで最悪の目覚めだった。労働意欲など皆無。

店長に休みたいと連絡、タ方までひたすら眠り、起きたのは5時だったか6時だったか。食事を摂りに街へ出て、そのままクラプへ。部屋に戻ったのは深夜を回った頃で、踊りながら飲んだ眠剤とジンで気分は膝瀧。シャワーを浴びてるうち、除毛カミソリが目に飛び込んできた。

「切ったら痛いのかな」

そう思って何度か手首に当てたまでは覚えている。赤い湯が排水溝に流れてゆく様は、ヤケにきれいだった。

たまたま顔を出した同僚の119番で一命をとりとめた私は、警察からの連絡で飛んできた実母に引き渡された。