
ホテルヘルスで店長を務めている。
求人広告や女の採用、面接などはすべて自分の仕事である。
私の店では、女を集めるために、風俗の求人誌に広告を掲載してるのだが、そこにはこんなキャッチコピーが踊っている。
︿脱がない、舐めない、触らせない﹀
むろんこれは真っ赤なウソである。
お客に最もウケがよく、店にとってもオイシイ、風俗未経験の素人娘を釣るため、あえてソフトな文面にしているだけだ。
彼女たちを面接に呼び、フェラチオ、素股などエロサービスの説明をすると、半数近くが「話が違う」と逃げていく。当然といえば当然だ。
しかし残りの半数は、口説き次第で、なし崩し的に勤めさせることができる。
こうしてウブな彼女らは、世の中そんなにアマくないことを知り、大人になっていくのだ。
現役のアイドルが面接に来るなんて
2年ほど前の夕方。
1人の女が面接にやってきた。美白スレンダーの超美形。
パッと見は元ヤン風情だが、ほんのり赤いホッペタと、ホットパンツから覗いた美脚が麗しい。
1年に1度、来るかどうかの上玉だ。
何かが私の心をゆさぶった。
この子、誰かに似てる。誰だ、誰だ…。
そのとき、毎月購読していたグラビア雑誌の水着ページが頭をよぎった。
︿そうだ! この子、Sじゃないの?﹀
Sは、グラビアアイドルである。
さほど売れてはいないけど、情報番組にもレギュラーで出演しているはずだ。
そんなコがどうしてヘルスの面接に?
番組の企画?単なる他人のそら似?
「では、まず身分証明書を見せてもらっていですか」
私のことばに、彼女がピクリと眉を寄せた。
「……あの、見せないとダメなんですか」
「はい。働く段階になったら身分証のコピーが必要なんです」
「でも、まだ入ると決まったわけじゃないですし」
「ウチは優良店だから、年齢確認をする必要があるんで。ほら、校生だったら摘発されちゃうからね。秘密厳守は徹底しますよ」
「そうですか……」
女が渋々カバンから身分証を取り出した。
どれどれ…。
確認した瞬間、私はごくりとツバを飲んだ。
漢字やひらがなも含めて、Sの名前が一語一句そのまま出ていたのだ。
彼女、芸名じゃなく本名で活動してたのか。
現役のアイドルが面接に来るなんて、前代未聞の大事件だ。
えらいこっちゃ!
せめて講習だけでも受けてくれないかこれはどうしても入店させなければ。
いつものなし崩しトークで、なんとしてもオトしてやる!
「驚かないでください。実は、ウチはホテヘルといって、お客さんとホテルで待ち合わせて、エッチなことをする店なんです」
「はい?」
「お金、ほしいですよね?」
「まぁ、お金はほしいですね。いま金欠状態で」
グラビアタレントでも仕事が少なければ金欠になるのだろう。
「正直に言いましょう。サービス内容は……フェラチオ、ディープキス、そして素股といいまして、まぁセックスをしているような擬似的な……」
「あの、ちょっと待ってください! そんなの聞いていませんけどぉ」
Sは、眉間にシワを寄せた。ドンと来い。ここからが正念場だ。
「いやね、それは系列店の話なんですよ。ウチは、あくまで風俗ですから」
「系列店?」
「ウチの系列には手コキだけの店がありましてね」
「じゃ、そこで働きたいんですけど」
手コキはいいのかよ!
アイドルなのに!今にして思えば、このとき素直に系列店に回しておけば、現役アイドルにシコシコしてもらえた方もいただろう。
でも当時の私は自分の店の利益しか見えていなかった。
なんとか口でサービスしてもらわないと!
「系列店はあまりオススメできませんよ。あいにくその店は在籍数が多くて、シフトが入れないのが現状なんです」
「……」
「それに手コキでは日給1〜2万だけど、ウチなら日給5万円はイケますよ」
「……」
Sがうつむいている。悩んでいるのか?
「じゃ、帰ります。ウソだったんですね」
「ちょ、ちょっと待って!」
こんなチャンスをみすみす逃せば、一生の後悔だ。働けなくてもいい。
せめて今から「講習」だけでも受けてくれないだろうか。もはや金儲けはどうでもいい。
現役アイドルの裸が見たい!
フェラをさせたい!
「Sさん、ちょっと冷静になってください」
私は語気を強めた。
「あなたくらいの容姿なら、今からでも5万円保証できますよ!」
「……」
「講習だけでも受けてみてはどうですか。3万円お渡ししますから」
彼女は私の目をキッと睨み、目を真っ赤にして言い放った。
「アタシ、帰ります!」
不甲斐なくて申し訳ない。もしあのとき口説き落とせていれば…嗚呼。
人気が落ちたらまた面接に来てほしいものだ。
- 関連記事