
1キロ2キロと、体重計の目盛りが減るにつれ徐々に人生が好転していくのがわかる。
劣等感でいっぱいだったデリの待機所でも、他の子の輪に入れてもらえたし、本指名も増えて収入も少しづつアップ!
ついに1カ月で体重は10キロ減って、反比例するように収入は10万円くらい増えた。
なにより嬉しかったのは、痩せて見栄えがよくなったことで、男の人から女性として見られるようになったことだ。
今までのズングリした体型のころは、人生で一度もナンパなんてされたことなかった。
でも、体重が40キロ半ばくらいになったころには、街でも声をかけられ始める。
「お姉さん何してる人? 時間あるなら遊ばない?」
「えっ? 私ですか?」
「そうそう、美人で可愛いよね。ちょっとカラオケでも行こうよ」
「えー、どうしよう…(私って美人になったんだ!)」
今から考えればお世辞なのは丸わかりだけど、当時は天にも昇るくらい嬉しかった。
だって太ってたころにはただの一度も声をかけられなかったのだから。
他にもコンビニなんかで接客を受けるときも、太ってたころは眼中にないような表情だった若い男の店員が、ニコっとした笑顔に変貌。男の人の反応って、女の美醜によって、ここまで露骨に変わるんだ…なんて驚いたりもした。
それにオシャレができるようになったのも最上級の幸せだ。
太ってたころは、体型を隠すためにワンピースみたいに、フワっとした素材が多かった。
だけど体重が落ちてからは自信がついて、ノースリーブとか、ショートパンツとか、肌を露出できるようになった。
一つだけ注意してたのは汗ジミだ。薬の影響で常に汗だく状態だから、濡れると色が変わるグレーとかブルーの服は絶対に着られない。
まあ、それでも渋谷の109の店員よりも細い身体になったときは幸せの絶頂だった。私最強! 世界一かわいい! みたいに思ってた。
なにせ服用から1年近くたって体重が40キロを切ったころには、どんどん指名が増えていって気が付けばデリヘルの本指名数がナンバーワンに。月収は当初の4倍、60万を超える額になったんだから。
昼職の看護師の給料と併せて、20代前半で年収1千万稼いでたし、我ながら中々のものだ。
しかし、順風満帆な私生活とは裏腹に、身体は限界に近づいていた…。
薬を飲み始めて20キロ以上も落としたことになる。
すると、いよいよ仕事にも支障が出始めた。
男性からすれば楽に稼いでいるように見えて、案外、デリヘルの仕事は肉体労働だ。
お風呂を準備して、客の身体を洗い、動き回ってプレイをし、再び客の身体を洗って…。
汗をかきながら働いても、客の前では水も飲めないからもう大変。素股で腰を動かしていると、お客さんの体に大量の汗が垂れちゃったりして心配されるほどだった。
「汗、尋常じゃないけど大丈夫?」
「ハアハアハア、はい…、すみません…」
「ちょっと休憩しよっか…」
「ハアハア、はい…、ハアハア」
と気を使わせてしまうほど。
それに体力が急激に衰え始めたので、どんなに頑張っても1日で3人までしか接客できなくなってしまった。
それでも我慢してダイエットを続けていると、ついに体重は34キロに。頬がこけ、アバラ骨が浮き出て、お尻の肉が落ち、貧相な体型になってしまった…。
ここまで痩せてしまうと、逆に男性からのイメージが悪くなってくる。次第にネット掲示板の爆サイに、私の悪口を書かれるようになっていた。
『ナンバー1って言われたからエリナ(私の源氏名)を指名したのに、鶏ガラみたいな体型だったよ』
『ガリガリすぎてヤバいよアイツ。クスリやってるんじゃないの?』
お店の掲示板は、こんなクチコミがあふれだした。
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