ホストクラブなら正直になれる
高校卒業後、保母さんを夢見て保育専門学校へ進んだ私は、バイト先で青年実業家を名乗る男性と知り合いました。
高そうな外国製のスーツを着くずした彼は、私から結婚資金を奪うとそのままトンズラ。
それどころか数百万の借金まで残していきました。
保母や、普通のOLでは利息も払えません。手っ取り早く返済してしまおうと、思い切ってソープに勤めることにしたのです。
お陰でー年後には借金もきれいサッパリなくなり、昼間の仕事にトラバーユしようと思った矢先のこと。同僚に連れられていったホストクラブで、ケンジ(仮名)に出会いました。
GLAYのボーカルに似た甘いマスクに一目惚れ。週に4日は店に通い詰めました。
「エ~ミのことが世界で一番好きだよ」
毎日、電話でそうささやく彼の言葉を信じて、半年後に婚約。みなさんは不思議に思うかも知れません。一度、手痛い目に遭っているのに、なぜ、そんな簡単に男、それもホストを信じるのかと。
これは、職業的な後ろめたさが関係しています。
例えば、高校の同級生と飲んでも、街でナンパされても、職業を聞かれて正直に「ソープ嬢をやってます」とは言えません。
別に恥じているつもりはないのですが、その場になると口にできず、テキトーにごまかしてしまうのです。
自分の素性を話せないのはストレスが溜まるモノが、ホストクラブでは隠す必要がありません。
風俗嬢の客が多いため、店の名前も堂々と言えるし、愚痴や悩みも相談できます。
「オレだってしょせんホストだよ。これからずっと、一緒に頑張ろうぜ」
そういうケンジの言葉にどれだけ慰められたかしれません。
この人は私のありのままをわかってくれる、そう思ったのです。
彼の売り上げを上げるためにせっせと店に通いー本10万はくだらないトンペリを開け、同伴にもつきあい、車まで贈ったのです。
「そろそろ将来のことも決めないと」
婚約してー年ほど経ったころ、私は彼に切り出しました。
休まず働いても自分の服を買うどころか、満足に家賃も払えない暮らしになったのです。
「わかった。じゃあまず親に会ってくれよ」
そんな甘い返事を期待した私がバ力でした。
彼は私のことばを聞くや無言で外へ飛び出すと、一切の連絡を断ったのです。
そして私は、少ない手がかりを追いかけ、やっと見つけた系列店のホストから衝撃的な事実を告げられました。
「オレたちは毎週、どの客からいくら引っ張るかミーティングで遂一報告してんだよ。『今週は、××さんに20万使わせます』とかさ。ケンジは、エミちゃんに彼女だって言ってるからヘルプに付いたら話しを合わせてくれって言ってたぜ」
頭をカナヅチで殴られたような、とはまさにこのこと。
ケンジは、誕生日だから、ノルマがキツイからと皆に教えられた口実で私からお金を引き出していたというのです。おまけに女性不信でセックスできないというのもウソ。
同棲してる本命の彼女に義理立てする彼に、店長が「女性不信と言え」とアトバイスした結果だったのです。
一時は自殺しようかと思いましたが、仕事が終わると私の足はついついホストクラブに向いてしまいました。お金さえ出せばチヤホヤしてくれ、その場だけでも寂しさを忘れられるのです。
私が新聞沙汰になったホスト、聖也(仮名)と出会ったのは、歌舞伎町でいちばん有名でした。
「ねえ、いつもどんなとこで遊んでるの。あしたからオレに会いに来いよ」
強引にアプローチをかける彼は色黒の30男。歌手の松崎しける似で、とてもホストには見えません。それでも次から次にまくしたてる彼のトークに翻弄され、気つけばその日のうちにシティホテルへ。私を女王様のように扱う優しいエッチに夢中になり、それからー週間、私は家にも帰らずセックス漬けの日々を送りました。
いま思えば、それは客を手玉に取る彼の手口だったようです。自分に夢中になったとみるや私を突き放し、会いたいなら店に来いと連絡してきた聖也。
私の仕事はタ方5時から深夜まで、対し彼は深夜1時から朝7時勤務。まるっきりのスレ違いでしたから、会うには彼の店に行くしかありません。
「店、来るんだろ」
深夜0時を過ぎると、私の仕事が終わったのを見計らったように聖也から電話が入ります。
最初こそ、お前は特別な女なんだからとお金は取りませんでしたが、そのうち2万でも3万でもおいていけ。オレのためにドンペリを入れてくれと能崖も変化。
そして、出会って約2カ月後。肺炎をおこして病床に伏している私に、彼はこう言ったのです。
「うちの従業員が30万円の売掛を残したまま逃けたんだ。お前、出してくれないか」
★ホストたちが狙っているのは私か運ぶお金だということは十分すぎるほどわかっています。なのにヤメられないホストクラブ通い。こんな私の生活は、いつまで続くんでしょうか。