読みどおり、入場するやいきな り１人きり娘を見つけた。地味な チェックスカートの、ＯＬっ てとこか。 「すみません、写真撮ってもらっ ていいですか」 「あ、はい」 ファインダー越しにとびきりの 笑顔を向ける。とにかくここで顔 を覚えさせなければ、再会時に「あ っ！」とはならない。 「今口は観光ですか？」 「はい、お寺巡りしてたんです」 よし、打ってつけの相手だ。 「じゃ、ありがとうございました。 お気をつけて」 「はい」 とっさにきびすを返し、見失わ ないように気づかれないように尾行する。彼女、次はどこへ向かう のか。どんな寺でもついていきま すよ。 彼女は近くのバス停から路線バ スに乗り込んだ。俺も他の客にま ぎれて乗車する。気づかれてない。 彼女が降りたのは鎌倉駅だった。デジカメを手にお 願いすると、「あ、は い」と笑顔で応じて くれた。 「ありがとうござい ます。あじさい椅麗 ですね」 「すごいですよね－」 「ここは初めてです か？」 「はい。こんなにた くさん咲いてるって 思ってなかったから」 「僕も感動しました よ。それじゃどうも」 「はい」 これだけ話せば印 象に残ったはず。い ざ尾行開始だ。 彼女は北鎌倉駅か ら電車に乗った。ま だ午後１時。電車の 方向からして江ノ島 や逗子あたりに向か うものと思われる。 もちろん帰宅された らの終わりだが 一巻の終わりだが。 降りたのはお隣の鎌倉駅だった。 江ノ電には乗り換えず、八幡宮方 面へ歩いていく。あじさい寺から ならわざわざ電車に乗らなくてもよかったのに。不慣れなんだな。 神社へと伸びる長い階段を登っ た彼女は、お賓銭をして手を合わ せると、おみくじ売り場でなにや ら物色しはじめた。電車に乗って渋谷へ。鎌倉のキ レイな空気とは打って変わった下 品な町だ。 居酒屋へ入り、記念写真をパシ ャリ。何が記念かわからんが、デ ジカメを取り出しやすいのは、こ の連載にとっては好都合だ。それにしても気になるのは、彼女がさ きほど大仏前で口にした〃ストレ ス“の内容だ。やっぱり原因は失 恋だと思うんだけど。 「違いますよ。なんか毎日同じ繰 り返しで刺激がないな〜と思って」 「彼氏は？」一いたけど別れたんですよ、２ヵ 月前に。同棲してたんだけど」 「なんでまた」 「なんか、もういいやってなっち ゃって」 そのお相手は独身男性だ ったらしい。彼女は過去、５才以 上の年上男性としか付き合ったこ とがないそうな。
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