不動産賃貸の又貸しビジネス大失敗談

裏モノの漫画を読み、感心したことがある。事故物件　の賃貸を格安で借り、そいつを相場の家賃で他人にまた貸し、その利ザヤで儲けている男の話だ（年3月号）。すげー、めっちゃかしこい方法じゃん！そう思った俺は、自分でもチャレンジしてみることに。　手順は漫画に載っていた方法を丸パクした。あちこちの不動　産屋をめぐったところ、都内某区で良さげな事故物件（アパート）を発見。同条件の隣室が家賃7万円なのに対し、事故物件の部屋は4万5千円と破格だ。つまり、また貸しを始めれば毎月2万5千円が転がり込んでくるわけだ。しかも敷金・礼金もゼロの物件だ。初期費用も格安に抑えら　れる。借り手はすぐに決まった。ジモティで募集を出したわずか　2日後に、応募のメールが届いたのだ。さっそく喫茶店で面談した。相手はシングルマザーのスナッ　ク嬢才で、アパートには1才の娘と2人で暮らすつもりだそうな。見た感じ、しっかりした性格っぽいし問題はなさそうだ。彼女が言う。「助かりました。最初は普通に　アパートを借りようと思ってたんですけど、なかなか決まらなくて」最近はどこの大家も家賃保証会社を利用しているのだが、そ　の手の業者にとって水商売系の人間は社会的信用度が低く、審査で落とされまくっていたのだという。「僕も借り手が見つかって安心しましたよ。実は仕事の都合で海外に長期滞在しなきゃならなくなったんですけど、どうしてもあの部屋を解約したくなかったもんですから」もちろんウソだ。金儲けのためのまた貸しとバレてしまえば、　反感を買う可能性がある。物件を管理する不動産会社や大家にチクられるようなことだけは絶対に避けねば。以後、何事もなく月日は過ぎた。毎月、滞りなく家賃が振り　込まれ、そのたびに2万5千円が俺の儲けに。いやー、不労所得っていいもんだなあ。しかし――。また貸しを始めて　7カ月ほどが過ぎたある日のことだ。物件管理の不動産会社から突然、電話がかかってきた。「十和田さん、あなた、ウチで借りてる物件、勝手に女性に貸してるでしょ！なんてことしてくれたんですか！」え、なんでバレたんだ？「他の住人の方から連絡が入っ　たんですよ。あの女性をどうにかしてくれって」なんでも、あの女が他の住人のドアに「夜中にギターを鳴ら　すな」といった苦情の張り紙を何度も貼っていたらしいのだが、その住人をはじめ、他の部屋にもギターを弾く人間は住んでいないらしい。どういうことだ？「とにかく日以内に女性を退去させてください。同時にあなたとの契約も解除です。期日以内に女性が退去しなかった場合は訴訟を起こしますよ。わかりましたか！」ヒステリックな言葉に動揺し、すぐさま女に電話をかけた。あ　あ、どうしよう。大変なことになっちまった。「もしもし。実は…」手短に状況を説明し、女に退去願いを申し出たところ、彼女　は露骨に嫌悪感を出してきた。「はあ？日以内に出ていけ？いきなりそんなこと言われても無理だし」「事情が事情なので、そこをなんとか…」「ふざけんな！」そこで電話は一方的に切られ以降、女とは連絡が取れなくなった。しかし4日後、女からショートメールが。　「よく考えたら契約者は私じゃないし、ここで抵抗してもムダですよね。とりあえず今日、荷物をまとめて出ていきます。それにしてもその不動産会社、クソムカつくけど、あの部屋を見たら青ざめると思います。ざまあって感じ」とまず出ていってくれることになったのはいいが、メール　の後半部分がひどく引っかかった。青ざめるってどういうことだ？イヤな予感しかしないんだけど…。　すでに女が出て行ったと思わ以降、女とは連絡が取れなくなった。しかし4日後、女からショートメールが。　「よく考えたら契約者は私じゃないし、ここで抵抗してもムダですよね。とりあえず今日、荷物をまとめて出ていきます。それにしてもその不動産会社、クソムカつくけど、あの部屋を見たら青ざめると思います。ざまあって感じ」れる翌日、アパートを訪ねて血の気が引いた。床を埋め尽くすほどのゴミ。腐った食べ物が山のように積み　上げられている台所。そしてトイレには、いつから放置してあるのか見当もつかない汚物の塊が排水を塞ぎ、とんでもない悪臭が立ち込めている。清潔感であふれていた物件が、　たった7カ月でゴミ屋敷に変貌していたのだ。それも相当なハイレベルの。こんな部屋で1才の子供を育ててたのかよ…。どう考えてもまともな精神の持ち主じゃない。きっと苦情の　貼り紙も幻聴か何かのせいなんだろう。なんてヤツにまた貸ししてしまったんだ！頭をよぎったのは、不動産屋が請求してくるであろう清掃代　プラス損害賠償のことだ。もしかして100万でも足りないんじゃないか？背筋が寒くなり、慌てて掃除を始めた。クソの詰まったトイ　レを手でほじくり出し、部屋中に散乱するゴミをかき集め、床にワックスを塗ってと、計4日をかけて、たったひとりで部屋を現状回復させたのだ。おかげで不動産会社から追加でカネを請求されることはなく、　無事に契約解除できたのだが…。事故物件のまた貸し、二度とやるものか！

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