
ゴールデンウィークということで外人観光客や家族連れでごった返す新世界。その入口にさしかかったところでさっそく興味深いおっさんがあらわれた。オリックスバファローズのキャップとユニフォームを着込み、ゆらゆら揺れながら歩いている。ぜひお話しておきたい。
○……おっちゃん ●……俺
●こんにちは。
○おお、おお。こんにちは。
●天気がいいですね。
○ホンマやね。野球日和やわ。
(オモロ点1)
●オリックスファンなんですか?
○ううん。オマリー(※阪神↓ヤクルトに在籍した外国人)のファン。(オモロ点5)
●え、でもそれは…(ユニフォームをさして)。
○ああー。ワシこれしか着いひんねん。
●洋服はそれだけなんですか?
○そう。なんちゅうか、みんな捨ててもうたから。
●なんで捨てちゃったんですか?
○いろいろイヤになってしもて
なぁ。まあいろいろあんねん。(オモロ点10)
●なるほど。
○聞きたい?
●はい、よかったら。
○火事になってしまってな。ワシの部屋。
●え…。
○その日着てたこれだけしか残らんかったんや。(オモロ点5)
●それはそれは…。
○おっちゃんカワイソウやろ。お金あげたなったやろ。(オモロ点7)
●うーん。
○でも心配せんでええわ。ウソやから。でもお金ちょうだい。(オモロ点5)
●え、ウソなんですか?
○うん。ワシな、こないだケンカしてもうてん。で、むしゃくしゃしててな、家の洋服全部ペンキで赤く塗ってしもてん。せやからこれしか残ってないの。
●あらら…。
○それもウソやけどな。
●なんですかそれ!
○ガハハ、ほないくわ。(両手を握って祈るように)兄ちゃんに幸せが訪れますように!なんで初対面の人間に嘘ばっかりつくのかさっぱりだが、合計33点とそこそこの結果を残してくれた。以降のエントリー者はひとまず、この点数を目標にしていただくとしよう。
嘘つきさんと別れた直後、チャリにまたがった演歌歌手みたいな風貌のおっちゃんを発見した。作業着の下はYシャツネクタイ。あの前髪の流し方と襟足は、山川豊を意識してるのかもな。
●お散歩中ですか?
○せやで〜。暑うてかなわんなぁ。
●ホントですね。それにしても髪の毛とかカッコよくまとめていらっしゃいますね。
○ホンマ? そう思う? 嬉しいわ〜。大枚はたいた甲斐あったわ。
●え、散髪にいくらぐらいかけてるんですか?
○7億。(オモロ点2)
●…あはは。
○なんや、オモんないか? せやけどあながちウソやないで。
●とにかくカネはかけてるってことですか?
○うん。1日2回床屋行くこともあるしな。(オモロ点5)
●へえ。
○ハシゴや。アソコでやってもろたけど今度はこっちで整えてもらおうってな。不思議やろ。このこだわり、ワシにもわからんねん。(オモロ点5)
●どこらへんが一番のポイントなんでしょう。
○暑いかどうかやね。涼しげにできるかどうか。
●髪型なのに暑さですか?
○せや。どんなにビシっといっても暑かったら意味ないしな。かといって寒すぎてもアカン。
●難しいんですね。
○そうやー。せやから洋服で調整すんねん。暑いなって思ったら一枚脱ぐし、寒かったら着んねん。それがオトコっちゅうもんや。(オモロ点5)
●それって髪型あんまり関係ないんじゃ…。
○(眉間にシワを寄せて不機嫌に)兄ちゃんオモロイこと言うなぁ。毛は命やろ。そんなん言う子は
ハゲの神様に捕まんで?(オモロ点4)
●あはは。
○ハゲ散らかしてまうど。(深呼吸して)「髪は命」ってな、女だけのもんやないねん!
●すいません。
○ええねん。わかったら走って去れ!(オモロ点10)
計31 点。立ちあがりのベタなボケに不安を感じたものの、怒りだしたことによって小ボケ点を稼いだ。将棋屋の外から盤を見つめるおっさんたちの中に、濃い水色のハットに淡い水色のトレーナーという、なかなかのオシャレさんを発見した。
●将棋いいですねー。
○うん。
●(他人の盤を指差して)なかなかイイ勝負なんじゃないですか?
○緊迫しとるわ。
●将棋好きなんですか?
○ここらじゃ将棋好きやないと生きていかれへんからな。
●へえ、でも…。
○(さえぎって)アカン。ワシやったらもっとオシャレな手打つわ。(オモロ点7)
●オシャレな手?
○うん。ダッサイわ〜。ダサ坊のヘタクソな手やわ〜。(オモロ点7)
●どういうのがオシャレな手なんでしょう。
○(アーケードに響くほどの大声で)パッシ!!(オモロ点15)
●え、どうしたんですか?
○オシャレってこういうことやん。ええ音鳴らしたほうがええやんな?(オモロ点8)
●ああ、どこに打つかじゃなくて音出すのがオシャレなんですね。
○両方やな。ええ場所に、ええ音で打つ。それがオシャレな一手。兄ちゃんも覚えとき。(オモロ点5)
●はい。そういえば格好も水色でまとめててオシャレですね。
○どやろなぁ。キミにはオシャレに見えてるかもしらんけどここらじゃ普通やで。スタンダードオシャレやわ。(オモロ点10)
●そうですか?
○井の中の蛙っちゅーのは一番恥ずかしいからな、何事も謙虚に考えんと。オシャレやなんて思ったらアカンねん。向上心なくなんねん。
●なるほど。
○(手を動かして帰れといわんばかりに)将棋見とるから、な?ごめんな、命がけで見とるから。
(オモロ点8)
●あ、すいません。
○ゴメンな。命削っとるから。
(オモロ点12)72点という高得点を叩きだした。いきなりの大声に面くらったものの、終始『オシャレ』をテーマにした話の展開は見事だ。夕方になりさらに活気が増してきた新世界。一杯ひっかけたであろう、酒のニオイをまとったおっちゃんたちもぞろぞろ現れはじめた。背後から声が聞こえてきた。振り向いた先にはかなり高齢のおっちゃんが。
○しんどいわ。しんどい。
●こんにちは。どうしたんですか?
○なんやキミは。しんどいワシに向かって意見する気か。(オモロ点3)
●いえいえ、そんな。
○しんどい言うてたらアカンのか? 目潰したろかいな。目潰すで。(オモロ点4)
●すいません。そんなつもりじゃ。
○しんどい言うてるうちはまだしんどないねん。おっちゃんの言うこと覚えときや。
●どういうことですか?
○ワシしんどいしんどい言うとるけども、ホンマにしんどかったら言えへんっちゅーこっちゃ。だから安心せえ。(オモロ点30)
●ああ、なら良かったです。
○なんや関東の生まれか?
●はい、東京から来ました。
○地底人やな。(オモロ点20)
●はい?
○東京もんなんてのは地底人みたいなもんや。なかなか会われへん。
●あー、そうですか。
○キミ、男に興味ある? ケツマンコ。(オモロ点200)
●え、いやいや、そっちの気はないですよ。
○あ、そうかいな。なんや。相手したろか思ったんや。(オモロ点40)
●オジサンはそっち系なんですか?
○むしょうにケツマンコしたなるときあんねん。でもノーマルや。ノー、マ、ル!(オモロ点22)
●あははは。それノーマルじゃないですよー。
○目潰すど。どっか行け!(立ち去る)
意外な展開から本日最高の319点を獲得した。
最初のしんどい、本当はしんどくないのやり取りから急激なホモ話へのシフトチェンジはお見事。考えたくないけど、オレの見た目がオッサンのムラムラを引き起こしたのかも。ゲームセンターに入ってみる。ここが普通と違うのは客の大半が50才オーバーのおっちゃん(おばちゃん)であることだ。皆パチスロや競馬ゲームにもくもくと取り組んでいる。そんな中、他人のスロットを見つめるおっちゃんに注目した。頬に手を当ててなんだか不安そうな表情だ。
●スロット見てるんですか?
○(キョロキョロして)え、僕に話しかけてんの?
●はい。
○(またキョロキョロ)え、なに、幽霊? ボクにしか見えてないんか?(オモロ点5)
●いや、人間ですよ。
○(キョロキョロ)すまん。ホンマになんもせんといて。ボク今日誕生日やねん。連れてかんといて。(オモロ点25)
●…あの。
○なんで僕なん? 僕にきたん?
●いやなんとなくです。スロットやらないんですか?
○やりたいけど誕生日やねん。カネ使ったらプレゼント買われへんやないの。(オモロ点18)
●ご自身でプレゼント買うんですか?
○だって誰もおれへんからなぁ。お母ちゃんぜんぜん僕のこと考えてくれへんし。自分のことばっかりや。
●奥さんですか?
○そや。ボクのことほっといて毎日食べ放題行っとるわ。お母ちゃん食べ放題好きやわー。(オモロ点8)
●そうですか。さっきの幽霊だなんだっていうのはどういうことでしょう。
○いやいきなり来られたら幽霊おもうやん。自分、幽霊と間違えられたことない? 間違えたの僕オンリー?(オモロ点14)
●オンリーです。初めて言われました。
○失敬しましたな。でももうちょい人間っぽくしてくれんと。話しかけるときは「幽霊ちゃうねんけど」って最初に言わんと怖いからな。心がけてな。(オモロ点30)
●はい、すいません。誕生日パーティはやらないんですか?
○やらん。こうやって人様のゲーム見てるのがお祝いみたいなもんやね。幸い(目の前のスロットが)勝っとるみたいやから、なおさらやわ。(オモロ点9)
●そうですか。自分ではやらないんですね。
○ケーキ買われへんからな。ケーキ食べたいし。(オモロ点10)
合計119点。立派な数字だが、誕生日の話で加点を伸ばしきれなかった。惜しい。誕生日をゲーセン、しかも他人のスロットで祝うという斬新な行いには感服せざるをえない。ゲーセンを出て歩き出したところで、後ろから独り言が聞こえてきた。白ヒゲをたくわえたおっちゃんだ。
○(うなるように)びゃあ、びゃあ〜。
●すいません、それって何を言ってるんですか?
○びゃあ、びゃあ〜。(オモロ点10)
●あの…。
○(ため息をついてから)なんや。
●何をおっしゃってるのかなと。
○(不機嫌そうに)はあ。猫のマネしとんねやぁ。猫のー。(オモロ点14)
●猫ですか。
○猫のマネしとんねや。お天道様の下で。生き甲斐や。(オモロ点12)
●どうして猫のマネなんでしょう。
○兄ちゃん犬飼ったことある?
●はい、飼ってます。
○あんなもん猛獣やろ。食い殺されるで。(オモロ点8)
●そんなことないですけどね。
○ワシの弟、もうほとんど食い殺されとったみたいなもんやからな。もうムチャクチャやったわ。(オモロ点17)
●え、飼ってらしたんですか?
○昔な。弟、毎日食われてたわ。
●噛まれてたってことですかね。
○噛まれる、食われる。同じやないか。もう猛獣はイヤやねん。猫はええどー。
●今は猫を飼ってるんですね。
○家の前に集まりよんねん。ワシのしょんべんとかもペロペロ舐めとるわ。立ちション。(オモロ点
13)
●家の前で立ちションするんですか?
○そういうときあるやろ。それでも猫はペロペロしてんねん。だからワシ、あいつらのマネするって決めたんや。毎日やっとるわ。お天道様の下で。生き甲斐や。(オモロ点10)
●なるほど。とにかく猫が好きだと。
○あとカルシウムも好きやね。
(オモロ点500)
●カルシウム?
○カルシウム好き。桜エビも好きや。(オモロ点350)
●へー。
○カルシウムと結婚しとったら良かったわ。猫飼って。(天を仰いで)楽しい毎日になっとったやろなー。(オモロ点8)
●そういうもんですか。
○パチンコ行くから、ほな、おおきに!(立ち去る)942点。文句なしのトップに浮上だ。猫のマネから犬叩き、さらには唐突なカルシウム好き発言と文句のつけようがない流れと言えよう。新世界から西成に足を向ける。その途中で驚きの光景が目に飛び込んできた。道路の植木にのめりこむ形で、雑誌を立ち読みしてるオッサンがいるのだ。近づいてみて腰を抜かした。あれエロ本じゃん。
●ちょっと失礼します。
○(こちらを一瞥して)おう、今日もええ天気やねっ!(オモロ点5)
●どうも。それ何を読んでるんですか?
○(視線は本にやったまま)ん?いや読んでへんよ。(オモロ点20)
●え、でも見てるじゃないですか。
○いやひなたぼっこしてんねん。ええ天気やね。(オモロ点38)
●いやいや。
○なに、ワシに興味あんの?(オモロ点6)
●ええ、なんでこんなところでエロ本読んでるのかなぁって。
○読んでへんよ。オメボンなんて。
●オメボン?
○(エロ本をガサガサ揺らして)これ。オメ本やん。読んでへんよ。拾っただけ。(オモロ点25)
●植木にのめりこみながら熟読してるように見えたんですけど。
○あそう?ぜんぜん読んでへんけどなぁ。拾ったまま動けなくなってただけやで。(オモロ点50)
●え、動けないんですか?
○うん。ちょっと一人じゃ無理やわ、これはさすがに。カラダにガタきてるから。この体勢のままでしかおられん。(オモロ点20)
●手伝いましょうか?
○いやええよ。別にええわ、このままで。
●ずっとこのままいるんですか?
○まあ人生なんてそんなもんやろ。動きたくても動けないときだってあるやん。ワシはそういうの、流れに身を任せるほうやから。まさにこの草(植木)に身を任せてるのと同じやで。(オモロ点26)
●へえ。家は近所なんですか?
○うん、近くよ。
●帰りたくないんですか?
○うん、いや、そらいつかは帰るで。でも今じゃないんやな。今は無理やから。
●そうですか。じゃあボク行きますね。
○うん、気いつけて。
●エロ本読んでましたよね?
○読んでへんよ。拾って動かれへんようになっただけ。(オモロ点80)エロ本を読んでたことをかた
くなに認めない姿勢で合計270点。最後はこっちがフッたようなものだが、見事な返しにとにかくしびれた。途中の身を任せる〜のあたりは何かウマイことを言ったみたいな雰囲気だったが他に比べて点数は伸びず。名脇役でんでん氏に似たおっちゃんが、首元よれよれTシャツを着てコンビニ前に座っていた。
む、なにかブツブツ声が聞こえる。おそろしいが近づいてみよう。
○ムニャムニャムニャ…(お経みたいだが聞き取れず)。
●(さらに近づき耳をそばだてる)
○…ビバビバ、ビバビバビバビ
バ。
●あのう、すいません。
○ん?
●さっきからそれ、何をおっしゃってるんですか?
○ビバのこと? おまじないやん。(オモロ点20)
●ビバ、ですか。
○(また小声で)ビバビバビバ、ビバビバビバビバ。
●どういう効果があるんですか?
○まず、眠気が覚めるよね。(オモロ点200)
●え、ホントですか。
○あとダルさも取れるしな。兄ちゃんもやりたい?(オモロ点80)
●そうですね。
○ビバビバビバ、ほら。
●ビバビバビバ。
○で、ビバビバビバビバ。4回。
●ビバビバビバビバ。
○どう? 調子ええやろ?(オ
モロ点2万)
●そうですね。眠気とかダルさを取るために唱えてるんですね。
○パチンコ行くねん。(オモロ点11)
●これからですか?
○せやからビバビバやっとんねん。3回のあと、4回やから。それ間違ったらアカンわ。最初からや。(オモロ点23)
●はい。もしかしてパチンコにも効果あるんですかね。
○ないよ。でもクセになっとんねん。(オモロ点5)
●誰かから教わったんですか?
○ツレやな。ゴミ屋で働いてたときのツレ。あいつ死んだんちゃうかな。ゴミみたいな顔してたし。(オモロ点400)
●生きてるといいですね。
○まあどっちゃでもエエけどな。ワシさえ生きてれば。(オモロ点200)
●そんな…。
○(無視してポケットからラジオを出し、イヤホンで聞く)ビバビバ…。(オモロ点90)
ちょっと点数の付け方がもはやわからなくなってきたが、脅威の2万1千29点だ。ビバビバビバ…もはやこの世の人間とは思えない…。ふと視線の先に一人のオッサンが見えた。コーヒー屋(喫茶店)の看板に寄りかかって缶コーヒーを飲んでいるのだ。これはぜひお話してみたい。
●こんにちは。
○おう社長、どしたん?
●いま何やってるんですか?
○考えごと。
●何についてでしょう。
○結婚指輪って給料3カ月分って言うやん? わけわからんな思って。(オモロ点11)
●まあ人によるとは思いますけど。結婚されるんですか?
○しないしない。そもそもワシの給料3カ月分って言ったら、せやな、ええとこチャリぐらいちゃうの? 割とエエ感じのチャリぐらいしか買われへん。(オモロ点30)
●なんでそんなことを考えてたんですか?
○ヒマやしなぁ。考えごとでもしてな一日終われへんし。(オモロ点9)
●他にも何か考えごとしてそうですね。
○あんなあ、そんなズケズケ聞かれて簡単に教えると思ってる?
●あ、すいません。
○ワシかて色々考えとんねん。でも全部教えるわけにはいかん。
●そうですよね。
○ちょっとだけ知りたい?
●はい、ぜひ。
○どうしよかなー。タバコくれたら教えたってもええけどなぁ。(オモロ点30)
●(1本取り出して渡す)じゃあお願いします。
○うーん。これやとホンマにちょっとしか教えられへんで?(オモロ点38)
●(もう1本渡す)これでいいですか?
○よっしゃ。あんな、考えごというても色々あんねん。だいたいこの道がな、ホンマに道かどうかなんて誰もわかれへんで?
●どういうことでしょう。
○みんな道や思ってるやろ。でもそんなんちゃうねん。ワシはこれ、おにぎりやと思ってるしな。
●道じゃないんですか?
○いんや、ちゃうな。ワシはこれおにぎりやと思ってるしな。腹減ったらパクパクいってまうわ。(オモロ点15)
●えっと。
○そういうこっちゃ。道かなんか知らんけど、人によって見方がちゃうねん。ワシがホンマにおにぎりやと思ってても全然オカシクないねん。せやから人間って、オモロイねん。(オモロ点26)
●うーん。難しいですね。
○食べてみる?(オモロ点80)
●いや無理ですよ。
○じゃあワシ食べたろか? 人の考えを否定する前に、これがホンマに道やっていう確証あるんか?
●道だと思いますけどね。
○兄ちゃんわかってないな。タバコくれへん? もっとちゃんと説明したいわー。(オモロ点30)
●(1本取り出して)これで。
○アカンアカン。これじゃしゃべれへん。もっとタールのキツイのじゃないと人間のオモロさ語れへん。(オモロ点33)
●買ってこいってことですか?
○そうは言うてへんがな。せやけど兄ちゃんがワシを知りたいなら、そういうことやけども。
●考えてみます。
○セブンスターでよろしくな。(オモロ点36)
計338点。マジでタバコを買ってもっと語ってもらおうと思ったのだが、戻ってきたら忽然と消えていた。残念だ。深いような、浅いような話だった。最初の給料3カ月分の話はいったいなんだったんだろう。
そろそろ終わりにしようと引き返す途中、後ろから声をかけられた。謎のガラシャツを着たスキンヘッドのおっちゃんだ。
○おい、おい、そこの社長!
●え、僕ですか?
○ワシ、ここらでアンケートとってんねん。協力してや。
●アンケートですか。
○ワシといえばチャーミングなお尻が有名やねんけど、もう一つ、めっちゃええトコがあります。それはどこでしょう?(オモロ点30)
●えーっと。クイズですか?
○そうそう。はい、どこでしょう。
●うーん。
○(真顔でリズムに乗せて)ズン、ズン、ズン、ズズン。(オモロ点14)
●それはなんですか?
○はよせな時間切れやで。ヒント欲しい?
●あー、ください。
○ヒント、下半身!
●うーん。じゃあ股間ですかね?
○(真顔のまま)ブーっ。ちんちんには自信ありまっせーん。もっと下、下やで!(オモロ点22)
●じゃあ足が長い、とか。
○(真顔で)ブッブー。残念やったな。
●あらら。
○正解は、足の速さでした!ワシむっちゃ速いからな。誰にも負けへん。(オモロ点13)
●難しかったですね。
○カールルイスとまったく同じ足の形してんねん。(オモロ点69)
●え、どういうことですか?
○足の形が、アイツと一緒やねん。せやからワシ、足むっちゃ早いねん。昔っからや。
●へえ。
○第2問いく?(オモロ点30)
●あ、じゃあお願いします。
○こないだ、あそこの公園でちょっとした事件が起こりました。それはなんでしょう?
●えー。難しいですね。
○ズン、ズン、ズン、ズズン。
●ケンカとか?
○ちゃうわ。そんなんいつものことやん。
●うーん。わからないです。
○時間切れー。正解は、CMのあとで!(オモロ点15)
●えーっと。
○ウソや。正解はな、ワシの干してるパンツが盗られたんや。
●そうなんですか。
○腹立つわ。もし見かけてたらぜったい逃がさへんけどな。どこまでも追いかけるし。
●ですよね。
○せやけどワシが留守の間のことやから。まさか兄ちゃんちゃうよな?(オモロ点90)
●いえいえ、僕は旅行で来てるので。
○そうかー。見つけたらすぐ呼んでや。シマシマのパンツ。ワシ公園おるから。絶対呼びにきてや。(オモロ点20)
●わかりました。
○ほな、またアンケートとらな
いかんからこのへんで。
●はい。
○ホンマは兄ちゃん盗ったんちゃう? 今やったら許すで?(オモロ点38)
●違いますって。
○せやな。ほなおおきに。(立ち去る)
いきなりのアンケート(クイズ)からはじまり合計341点。普段なら優勝でもおかしくない点数だが今回は銅メダルに終わった。もしかして最初から下着ドロと疑っていて、クイズ形式でごまかしながら近づいてきたのだろうか。
大阪のいいおばちゃんNO1は誰だ
大阪のおばちゃんは必ず、いくつもの飴玉をバッグに忍ばせているらしい。そして誰かとちょっとした会話を交したときに、その飴玉を手渡すのだそうだ。
「アメちゃんあげるわ」と。ならば調査だ。どんなおばちゃんが、どんな飴をくれるのかを。
そして一番イイ飴をくれたご婦人を、飴ちゃんクイーンとして秘かに表彰するとしよう。いざ、大阪随一の繁華街、千日前へ出発。商店街をブラブラしていたらサングラス姿のおばちゃんを発見した。ニコニコしながら歩いてるので話しかけやすそうだ。
(○…オバチャン ●…タテベ)
●こんにちは。
○おぅ、びっくりしたわ。どないしたん?
●観光で来てるんですけど、この辺のオイシイご飯屋さんってご存知ですか?
○大阪はなんでもウマイでぇ。どんなんがええの?
●おばちゃんのオススメなら、なんでもいいです。
○あっら〜、責任重大やわ。しょうもないお店は紹介でけへんなぁ。そやな〜。あ、お兄ちゃんにアメちゃんあげとこか。
(いきなりくれた! しかも2個も)
●あ、ありがとうございます。
○お店なぁ。ないわ。ワタシ、外で食べへんから。
●そうですかぁ。
○亭主が死んでからな、家で豆ばっかり食うてるわ。
●マメ、ですか?
○マメ。お豆さんばっかりやぁ。ほんまガリガリなってもうた〜。
●枝豆とかですか。
○なんでも食べるで、マメは。もうガリガリや。(袖をまくって)見て、肌もガサガサやん。あら、寒いわぁ。
●…なんで豆しか食べないんですか?
○亭主が好きやってなぁ…まあええわ。ほいでお兄ちゃんは何? お腹空いてるんか?
●そうですね。
○ほんならそこのおソバ屋さん行っといでぇ。きっとオイシイわ。自分は豆しか食べないのに、他人には2種類もの果実系アメを恵むとは、かなりできたおばちゃんのようだ。素敵。
さらに商店街を歩く。前方から、紫のニットに赤いルージュでキメたオバチャンが近づいてきた。
●すいません、ちょっといいですか?
○ハイハイ、おはようさん。
●おはようございます。
○あら、お兄ちゃんアメちゃん食べる? 大阪の子じゃないやろ。
(またしても、すぐにゲット!)
●はい、そうなんです。
○これから雨降る言うてたで。傘持ってへんの?
●持ってないですね。
○あらぁ。悪いけどな、オバちゃんアメちゃんはあげれるけど、傘はあげられへんねん。ごめんなぁ。アハハハ!
●いえいえ、大丈夫です。
○コンビニで買うたほうがええよぉ。降水確率50パーやから。ほんなら5分5分やないの! ってな。でもこればっかりは、50パーでもほぼ確実に雨は降るねんなぁ。オモロイもんで。
●そうですよね。
○で、なに? オバちゃん急いでんねんけど。
●いえ、もう結構です。
○そう。じゃあね。落ち着きのない会話とは裏腹に、渋いアメをお持ちだった。実は淑女なのかもしれない。スーパーの前で安売りの飴を見つめるおばちゃんを発見。これからカバンに補充するのか。
●こんにちは。お買い物中ですか?
○せやで〜。兄ちゃんどした?
●東京から来たんですが、地元の人とお話してみたくて。
○なんやのキミは、突然。面白い子やね。はい、これあげるわ。(またもや一瞬でゲット)
●ありがとうございます。アメ玉持ってるのにまた買うんです?
○あたりまえやん。キミみたいな子にアメちゃんあげないかんからなぁ。なーんてね。ウフフ。
●いつもアメ玉を持ち歩いてるんですか?
○持ち歩いてるっていうか入っとんねん。カバンとかポッケに。気がついたらそこにおんねんなぁ、アメちゃんは。
●なるほど。
○で、観光で来てるの?
●そんなところです。
○ほうか〜。オバちゃんも旅行いきたいわ。温泉行きたい。
●旅行好きなんですか?
○好きやけどなかなか行かれへんなぁ。ほら、ウチ子供多いやろ?
●そうなんですか。
○旅行なんかエライ出費やで。
●そうですよね。
○しかもローン地獄やで、ウチなんて。何のために生きてんのかわからんわ。まあー、楽しくないわ。最近は特に。
●何かあったんですか?
○カラオケに行かれへんねん。近所のとこが潰れてもうて。
●へえ。
○辛いわぁ。ほら、ワタシ根っからのシンガーやから。
●そうなんですか?
○シンガーよ。でも潰れてもうたからね、そりゃあ他の店に行ったらええんやけど、メンドイしなぁ。
●カラオケ好きなんですね。
○まあなぁ。根っからのシンガーやから。あ、兄ちゃん、ワタシ帰らなあかんから行くで。またねぇ。新たにアメを補充するタイミングという不利な条件ではあるけれど、さすがに溶けかけの飴を高評価するわけにはいかない。なにやら奇抜な格好のご婦人が自転車でアーケードを通行している。オレンジ色のサングラスを少し下げて、まるでヤクザコントに出てくるチンピラだ。
●ちょっとすいません!
○(チャリから降りて)はいはい。
●観光で来てるんですけど、このあたりでオススメの場所ってありますか?
○えー、ワタシに聞くぅ?
●突然すみません。
○ええよええよ、そうやねぇ、オススメかぁ。考えたことないなぁ。ガイドブックとか持ってへんの?
●ないんですよ。
○無計画旅行やねえ。それはそれで楽しいもんや。
●どこかありますかね。
○ちょっと遠いけどね、動物園はあるよ。あとはボーリング場とかな。お兄ちゃんはパチンコする人?
●パチンコは、たまに。
○ほんならそこのパチンコ屋行ってみ、ワタシのお気に入りやから。
●いい店なんですか?
○居心地がええねんな。イチパチがあるから一日潰せるし。
●考えておきます。
○なにぃ、ヒマなん?
●まあ、そうですね。
○大阪、ええ街やろ。
●はい。
○どこから来たん?
●東京です。
○えー、大変やったね。ワタシの兄弟も東京に住んでるんやけどな、全然帰ってこおへんわ。
●そうですか。
○うん。タコ焼き食べた? ウマイやろぉ。銀だこやったっけ?全然違うやろ、あれとは。
●ああ、そうですね。
○外フワ中トローがええやろ、な?
●そうですね。お買い物の途中ですか?
○ううん。パチンコ、これからもう一回いくねん。勝負や。
●勝てるといいですね。
○勝つよ、お寺さんに手合わせてきたから。●はあ。
○じゃあ行くからね。そや、アメちゃん食べて。(ようやくゲット)
●ありがとうございます。
○待ってんで。そこのパチ屋やから。アハハハ、ほな〜。
きっとパチンコの景品なのだろう。オバチャンと同様にパンチの効いた味だが上品さが若干欠けている。前髪パッツンのミセスが、のそのそと歩いている。しっかし大阪のオバチャンのグラサン率、高過ぎやしないか?
●こんにちは。
○はい?
●そのサングラス、格好いいですね。
○ええ、ありがとう。お兄さんもなかなかええズボン履いてますやん。オシャレやぁ。
●ありがとうございます。
○ほなこれで。…って、何よぉ、どうしたのぉ。
●アハハ。このあたりで美味しいお店を探してて、ご存知ないですかね?
○ああ、ええ飲み屋さんならありますよ。近いで。
●飲み屋ですか?
○ワタシの娘がやってるんですけどね、エライお客入っとるみたいやわ。うん、行ったほうがええ。
●そうですか。
○うん、あ、ちょっと待って。娘に電話してあげよか?
●え?
○いちおう予約しといたほうがええやろ。な、電話しといたるわ。お名前なんていうの?
●いや、夜はちょっと予定があるんで…。
○なんや。それなら早く言ってくれたらええのに。
●すいません。
○残念やわ〜。他の店は知らんなぁ。なに、こうやって色んな人に聞いてまわってるの?
●ええ、まあ。やっぱりイイ店に行きたいので。
○そらそうやわ。でも娘の店も行ってみたらええと思うけどなぁ。チーズが美味しい言うてたで?
●へえ、バーみたいなところですか?
○うん、そんな感じと思うけどねぇ。女の子もつくらしいわ。
●うーん。
○まあええけど。せや、そこに吉本の劇場あるからそこで聞いてみぃ?教えてくれると思うわ。
●そうですね。
○まっ、頑張ってください。アメちゃんあげるから、ね?あまりに凡庸で特徴のないアメである。会話からは娘を思う母の優しさがにじみ出ていただけに、この無難さは残念だ。
ふいに鼻歌が聞こえてきた。音のする方向には、『生活笑百科』の仁鶴師匠にそっくりのオバチャンがたたずんでいる。
●ちょっとすみません。
○はい、こんにちは。どうしたんですか?
●お散歩中ですか?
○散歩といえばそうやし、違うといえば違うけども。まあヒマっていうこっちゃ。イヒヒヒ。
●僕もちょっと暇してたんですよ。
○そうですか。大阪の人とちゃいますやろ?
●はい、東京から来ました。
○(カバンをごそごそしながら)そうですかぁ。それはよろしいわ。
●はい。
○(ティッシュを出して)ちょっとごめんなぁ。
●風邪ですか?
○なんや寒いからなぁ、ちょっと鼻が出てしまってなぁ。お兄ちゃん、お仕事で来てるの?
●まあ、そんな感じです。
○せやけど私服なんやな。悪い仕事してるんやろ。女をハメたりしたらいかんでぇ。そんなことしたらバチがあたるわぁ。アハハ。
●そんなんじゃ…。
○ほら、アメちゃん食べえや。大阪のオバチャンはな、アメちゃんくれるんやで。嬉しいやろ。
(3個もゲット!)
●あ、ありがとうございます。
○ホンマは何の仕事なん?
●サラリーマンです。
○そうかぁ。でも私服なんや。これは怪しいでぇ。(目の前を通ったオバチャンに向かって)なあ、お姉さんもそう思うやろ?
●じゃあ、ありがとうございました。
○なんやせっかちさんやなぁ。オバチャンの息子もそうやねん。風呂なんかほんの1分くらいで出てくんねん。
●へえ。
○そんなんじゃイカンで。オバチャンみたいにお花に話しかけるくらいにならな。そのくらいの余裕は必要やで。
●はい、わかりました。
○お花はキレイやで。人間だけや、地球を汚すのは。ホンマは生きてたらあかんねんな、人間は。
●はい、それでは失礼します。色んな味のアメがごっちゃになって入ってる中から適当にくれたようだ。複数の味をくれたことには感謝だが、味がどうにも安っぽい。
夕方になって商店街の人通りがさらに増えてきた。オバチャンも増殖しまくりだ。そんななか、スナックのママ的なオバチャンが視線に入った。髪の毛はチリチリで、またもやグラサン着用だ。
●ちょっとお伺いしてもいいですか?
○え、ワタシ?
●はい。僕、東京から来て…。
○あらぁ、よお来たねぇ。なに、旅行かいな。
●まあ、はい。それでイイ店…。
○大阪ええやろ〜? 元気な街やろ?
●はい、いい店を…。
○どこ行った?天王寺動物園は行ったん? 楽しかったやろ?
●行ってないです。
○え〜、あのへんオモロイからゼヒ行ってみてほしいわ。夜はちょっと危ないけどなぁ。ワタシみたいなか弱い乙女は1人で歩けませーん(手をバツにして)。
●アハハハ。
○あら、その顔はあれやね、「乙女ちゃうやろ!」って言いたげやね。ちゃうわ、東京の人は「違うだろ!」やな。
●いやいや。
○見たで。オリンピックおめでとうな。やっぱりアレか、誇りやの?
●まあ嬉しいですね。
○そらそうやわ〜。大阪でもやってくれへんかなぁ。阪神が優勝でけへんから、なんかこう、ドカーっと盛りあがるイベントが欲しいとこやねん。
●……。
○ちょっとだけ大阪でもやったらええのにな。なんや、「僕に言われても仕方ないです」って顔やなぁ。そらそうやね。で、どしたん?
●あの…。
○あ、アメちゃん食べる? ほい、あげるわ。(ふいにアメ玉ゲット)
●ありがとうございます。
○ええよええよ。挨拶みたいなもんやから。それでどうしたん、なにか用事があるん? それともナンパ? アカンで、ワタシ人妻やからなぁ。ウフフフフフフ。
●いえ、もう大丈夫です。
○そうなん? 残念やわぁ。今日は勝負パンツやのに、ってやかましいわ! アハハハ!
流行ってるのか、はたまたこのあたりのスーパーで安売りしてたのか。先のおばちゃんが3個くれただけに1個では星は伸びない。植え込みに腰かけていたら目の前をちょっと異様な人が通り過ぎた。スキマだらけの歯で目に青アザを作っているのだ。どうしたんだよ。何か事件に巻き込まれたのか。
●あの…。
○はい、どうしました?
●失礼ですが、目、大丈夫ですか?
○いやぁ、アハハ。大丈夫ですよ。
●何かあったんですか?
○いや、ちゃうんですよ。自分でぶつけたんです。仕事中に居眠りしてたらね、首がガクンってなって、台に置いてた醤油さしにぶつけてしまってねぇ。
●ああ、そうなんですか。
○心配してもらってありがとう。
●まあ、はい。
○何、大阪の人とちゃいますよね?
●はい、東京から来ました。
○へえ。東京から。東京にもこんな優しいお兄ちゃんがおるんやねえ。
●アハハ。
○アタシ、東京言うたらみんなそのへん歩いてる人にツバひっかけてると思ってたわぁ。感動やね。
●そんなことないですよ。
○そうやね。勉強になったわぁ。
●どこかに行かれるんですか?
○ちょっとね、妹のところに。
●ほうほう。
○足すべらせちゃったみたいで、スネを5針縫ったんよ。だからお見舞い。
●そうですか。それはそれは。
○ま、たった2人の姉妹やから。こういうときは助け合わないかんからね。
●仲良しなんですね。
○そやねぇ。どっちも結婚してへんから余計やね。
●そうなんですか。
○どっちが先にお嫁に行くか、皆で賭けしてんねん。ホンマ腹立つわ〜。
●アハハハ。
○だから絶対アタシが先にいったろうと思ってね。妹だけには負けたくないから。
●頑張ってください。病院はここから近いんですか?
○すぐよ。チャリなら10分。
●ほう。
○一緒に行く?
●いや…。
○冗談やん。アハハ。アメちゃんあげるわ。何個欲しい?
●えっと、何個でもいいです。
○じゃあ1個ね。アタシと折半や。ほい。(ようやくゲット。オバチャンも口に入れる)
●ありがとうございました。気をつけて。
○はーい。ミルク&ミントという冒険的な味のアメを持ち歩くあたり、かなりのアメ通と思われる。無難にまとめてこなかった点を評価したい。
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