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恥ずかしい話だが、俺はフーゾクやガールズバーの女とは気楽にしゃべれるのだが、初対面のシロート女が相手だと妙に身構えてしまう。
結果、会話がぎこちなくなり、もちろん男女の仲になどなることもなく、そのまま関係は立ち消えてしまう。
同じような悩みをもった男性は多いのではないだろうか。会話に詰まるせいで盛り上がれなかったり、いいセリフを吐こうとしてお寒い結果になったり。
そこで今回、話下手でもなんとかなるとされている手法を実験してみたい。
オウム返しだ。
基本、女は話を聞いてくれる男を好むといわれる。男の話になど興味はないのだ。とはいえ、ただ無言でうなずくだけの男はコミュニケーション能力なしとみなされる。
そこでオウム返しだ。
女「私、昨日ディズニーランド行ったの」男「へえ、ディズニー行ったんだ」
女「そうそう、人がいっぱいでさー」男「へえ、いっぱいだったんだ」
ほら、会話になってる。話を聞いてくれる人になってる。こんな簡単なことで、話下手から一変、モテ男になれるのだ。
ではお見合いパーティに出発だ。
平日夜のお見合いパーティには、勤め人っぽい年上の女性ばかりが集まっていた。みんな30手前〜40くらいか?
本日、俺が自らに課したルールは、以下のとおりだ。
①女の話にはすべてオウム返し
②質問には素直に答える
③同じ質問を返すのもあり
質問に対しオウム返しするのはあまりにおかしいし、そもそも質問に答えるだけなら会話下手でもなんとかなるものだ。
それではいざ、回転寿司タイムスタート。

37才、医療事務のナナさん。この年でお見合いに来るってことは、結婚に焦ってそうだが…。
○はじめましてー、こんばんは。
●こんばんは。
○好きなタイプが〝よく食べる人〞って面白いですね。
●好きなんですよ、よく食べる方が。
○私、かなり食べるほうなんですよ。お昼にラーメンとか大盛りで食べたりしてて。でも…。
●でも…?
○つい最近、お気に入りのラーメン屋が潰れちゃって、すごくショックなんですよ。
●ショックなんですね。
○お昼にどこ行けばいいのか途方に暮れてて。あはは。
●途方に暮れていると。
○そうなんですよねー。
●そうなんですか。
○…。
●…。
沈黙している間に「間もなくお時間でーす。男性の方は移動してください!」と司会の声が響く。
黙ってる間に終わっちゃったんだけど、この作戦で本当に大丈夫なのか?

医療事務の30才、ユリカさん。また医療事務か。仕事の愚痴とかしてくれると楽なんだけど。
○どうもー、お若いですね。
●そうですね。若いですね。
○お仕事、出版なんですね。忙しそう。
●出版は忙しいですね。
○やっぱりそうですよね。私のところはけっこう気楽なので。
●気楽な職場なんですね。
○そうですねー、割とラクだし楽しんで仕事してますよ。ふふ。
●へえ、楽しめてるんですね。
○薬の在庫を管理したり、その薬を整理したりするんですけど、そんな大変じゃないし、薬の知識も身に付くので。
●薬の知識が身に付くんですね。
○例えば自分とか家族に出された薬が、どんなものかわかればその病院の良し悪しってわかるじゃないですか。なので役に立ちますよ。
●なるほど、それは役に立ちますね。
ちゃんと会話になってるな。ペラペラ楽しそうにしゃべってくれてるし。こりゃ楽チンだ。

アパレルの28才、ミカさん。ちょっと顔がキツくて怖い。「ふざけてるんですか?」と怒られなければいいが…。
●こんばんは。
○こんばんはー、けっこう垂れ目ですね。
●そうですね、垂れ目ですよ。
○うらやましい。私、釣り目なんで近寄りづらいって言われることが多いんで。
●近寄りづらいって言われるんですか?
○ええ、結構。アパレルの仕事だとやっぱり、損なんですよね。
●アパレルだと損かもしれませんね。
○だから垂れ目の人って羨ましいんですよ。優しそうなので。
●優しそうですかねー。
○ええ。プロフィールの趣味とか、映画のチョイスとかもすごく温厚そうな感じが出てますよ。
●出てますかね。
○私は最近「君に読む物語」を見たんですけど、山野さんは見ましたか?
●見てないですね。どんな話なんですか?
○婚約者がアルツハイマーにかかるんですけど、それでも愛し続けるというストーリーで、とても美しいお話なんですよ。そんな恋愛って、憧れませんか?
●憧れますねぇ…。
○ですよね! この話をすると子供っぽいとか言われちゃうんですけど、わかってもらえてよかったです。
顔に似合わずピュアな人だったな。それにしても、オウム返しだけなのに、後半喜んでるところがおかしいな。

27才受付嬢、ユリカさん。けっこうな大企業に勤めてるんだろうか?
●こんばんは。
○どうもどうも、編集ってマンガとか? 最近ドラマ見たけど、大変そうだね。
●あのドラマほど大変ではないですよ。お仕事は大変ですか?
○あたしもそこまで大変じゃないけど、立ちっぱなしのときがあるから、そのときはちょっと辛いかな。
●立ちっぱなしのときがあるんですか?
○イベントとかでひっきりなしにお客さんが来るときはずっと応対してなきゃいけないから、休むヒマがなくて。大変なんだよね。
●休むヒマがないのは大変そうですね。
○でしょ? 受付なんだからただニコニコしてるだけでしょ〜とか言われることあるけど、そんなことないっつーの! って感じ。わかってないよね。
●わかってないですね。
○さすが、出版で苦労してる人はわかってるねえ。
●わかってますよ。
○わかってくれるかい。あ、もう時間だ、またね!
ノリが良くて楽しい人だった。ほんと、オウム返しだけで、女はペラペラしゃべる生き物なんだな。

アパレルの35才、エリコさん。なんか老けて見えるが…サバを読んでいるのか苦労しているのか。
○うわっ、若いね! ひと回り違うんだけど!
●言われてみれば、ひと回り違いますね。
○君、ハッキリ言うね。嫌いじゃないよ。
●確かにハッキリ言う方ですね。こういうの、嫌いじゃないんですか?
○うん、そうだねー。ナヨナヨされるより全然よくない?
●ナヨナヨよりは全然いいと、僕も思います。
○年上は平気なの?
●全然大丈夫です。
○へえ、珍しいね! ところで、山野くん友達は多い?
●多いと言えるほどはいないですけど、少なくもないですね。
○友達、みんな同年代でしょ? 今度合コンしない?
●しましょうか、合コン。
○えー本当にいいの? 若い子いっぱいで楽しみなんだけど!
●楽しみですか。
○そりゃ楽しみでしょ。ひと回り下の男の子と合コンだよ?
●それは楽しみですねぇ。
○なんで他人事みたいに言ってんのよ。山野くんも来るんでしょ! あとで番号教えてね。
感触は悪くなかったけど、合コンとなると長期戦だからしんどいな。
それにしても最後の方はちょっと危なかった。タイムリミットがなければバレてたかも。

25才OLのサクラ。顔も雰囲気も地味だし、おとなしそうだ。会話になればいいけど。
○お疲れっすー。
●お、お疲れさまです…。
○なに、緊張してるの?
●緊張してます。
○そんな緊張することないよ。もっと気楽に気楽に。
●確かに、緊張することないですね。
○そうだよ。せっかく来たんだから楽しまなきゃ。
●そうですね。せっかく来たんで楽しみますね。
○そうしな。
●そうします。
○てかさぁ…。
●…?
○それ何? 恋愛のハウツー本とかのマネ?
●え、何がですか?
○そのマネするやつ。今やっても意味ないでしょ。やるならもっとちゃんとやりなよ。
●え…(素に戻る)。
○本か何かのテクニックを試してるんだろうけど、そんな連発したらダメだって。使いどき考えなよ。
●すみません…。
ついにバレたか。会話の流れが怪しかったし、バレそうだとは思ってたけど、こんな地味な女に指摘されるとは。

37才、事務員のユカリさん。この人は年齢よりも若く見えるな。
○こんばんはー、ごめんなさい、酒焼けしてて声がヘンなんですけど。
●確かに、ちょっと声がヘンですね。
○昨日飲みすぎちゃって。二日酔いじゃなくてよかったんだけど。
●飲みすぎちゃったんですか。よかったですね、二日酔いにならなくて。
○ねー。もう結婚とか、意識してるの? 若いのに。
●ぼんやりとは考えてますね、出会いもないので。
○しっかりしてるんだね。私はそろそろあせってますよ。
●あせってますか。
○あせるよー、だってあと3年で40ですよ、私。
●あと3年で40ですか。
○イヤー、やめて! それ以上年の話はヤメて!
●わかりました、年の話はヤメましょ。
○でもやっぱり若い子はいいねぇ〜、友達紹介してくれない?
●いいですけど…僕はダメですか?
○またまたー。調子いいんだから。
●調子いいですかね。
○とりあえず、今度私も友達連れてくから、大勢で飲もうよ。
●わかりました。大勢で飲みましょう。
…また合コンパターンかよ。オウム返し作戦だと何かに誘われた際に拒否のしようがないんだよな。

研究職のミナミさん26才。学歴が大学院卒とある。インテリだなぁ。
○こんばんは。旅行が趣味なんですね。
●そうですね。旅行は好きです。
○海外ですか? 私は最近、九州へ行って鍋島焼(佐賀県特産の焼き物)の展覧会へ行ってきたんですけど。
●鍋島焼の展覧会ですか…。
○鍋島焼、ご存じなんですか? あの気品のある青みが素敵なんですよね。
●確かに、鍋島焼の青みには気品がありますね。
○お若いのによくご存じですね。あとは備前焼なんかも私は好きです。
●備前焼も好きなんですか。
○そうなんですよ。絵付けをするものと違って、二つとして同じものが作れないところに自然のすごさを感じますね。
●備前焼は同じものができないですからね。確かに自然を感じますね。
○そうですよね。ここでお茶碗の話がわかる人がいるとは思いませんでした。
●ええ、僕もです。まさかここでお茶碗に興味がある人がいるとは思わなかったです。
○私、茶道師範の資格を持ってるんですよ。よければまた後でいろいろお話したいですね。
●ええ、僕もまたお話ししたいと思います。
…あれ、かなりいい感触だぞ。
もちろん俺は茶碗のことなんて何一つ知らないし、興味もないのだが
…勝手に向こうが詳しいと思い込んでくれるなんて。

お次はパティシエをやっているという31才のマナミさん。
●どうも、こんばんは。
○こんばんは。よろしくお願いします。
●よろしくお願いします。
○あ、中野区に住んでるんですね。私も中野区なんですよ。
●そうです、中野区なんですよ。
○中野のどのへんに住んでるんですか?
●××××のあたりですね。
○えー近い! もしかしたらご近所さんかも!
●ご近所さんかもしれませんね。
○ですよねー、じゃああの辺に新しくカレー屋できたの知ってます?
●知ってますよ。最近できましたよね、カレー屋。
○あそこ行きましたか? 気になってるんですけど。
●行ってないですねー、僕も気になってはいるんですけど。
○気になりますよね。今度行ってみようかな。
●行ってみるんですね。
○おいしかったら報告しますね!
最後は「一緒に行きましょうよ」と言うべきところだろうが、それはルール違反だからな。

ラストは、29才事務員のサヤカさん。地味そうな外見だが、趣味はバイク・登山と書いてある。意外とアクティブなんですね。
○どうもー。
●どうも。
○君、クロスバイク乗るんだ。あれってどうなの?
●思ったよりスピード出るし、面白いですよ。
○まぁ、あたしは普通のバイクが好きなんだけどね。エンジンついてるからだいぶ違うよね。
●エンジンついてるとだいぶ違いますね。
○でも、外に出るってのはいいよね。
●そうですね。外に出るのはいいことですね。
○ねー。今日もインドア系の人ばっかりだったし。
●インドア系の人ばっかりでした?
○そう。趣味がパソコンとか映画とかばっかりで。
●パソコンとか映画ですか。
○普段ネットにどっぷりなんだからさ、たまには外に出ないとダメだと思わない?
●そうですね、外に出ないとダメですね。
アウトドア派に思われたのはいいのだが、この人は俺の真っ白な腕を見て何も思わなかったのだろうか。さて、せわしないお見合いタイムは終わった。次はフリータイムだ。可能性がありそうなのは、3人目のミカさんと8人目のミナミさんだろうか。他は世間話レベルの会話しかできていないので、この2人に的を絞るとしよう。
まずは3人目のアパレル28才、ミカさんへ。
○あ、また来てくれたんですね。
●また来ちゃいました。
○さっき聞きそびれたんですけど、ミッドナイト・イン・パリってどんな映画なんですか? 恋愛観をちゃんと持ってる方のオススメ映画って、気になるんですよ。
●ヨメとうまくいってない男がタイムスリップして「過去はいつでも良く見えるものなんだな…」って自覚する話ですね。
○あぁ〜わかります! 私も元カレのこと思い出してそう思いますもん!
●元カレのことを思い出すとよく思えるんですか?
○そうですねー、優しかったときのことばっかり思い出しちゃって。
●優しかったときのことを思い出しちゃうんですね。
○でもそのときは別れたい理由があって別れたはずなのに、なんでなんでしょうね。
●なんでなんですかね…。
○難しいですね、恋愛って。
ただオウム返ししているだけなのに「恋愛観をちゃんと持っている」という評価をいただいた。
次は茶碗の話をゴキゲンでしていた8番のミナミさんへ。
○あ、山野くん。お話ししたかったんですよ。
●僕もお話ししたかったです。
○やっぱり、趣味を共有できそうな人のほうが一緒にいて楽しそうなんで。
●ですね。趣味は共有できた方が楽しいですね。
○山野さんもそう思いますか? 今度一緒に美術館へ行きません? 唐津の器が公開されるらしいんですよ。
●唐津の器ですか。いいですね、行きましょう。
○じゃあこれ、私の連絡先です。あとでラインくださいね。
と、ラインIDを書いてくれた。趣味に理解があるどころか、茶道好きの男だと思われているようだ。反応はかなり良い。この人を狙うしかないだろう。
そしてカップル発表の時間。なんと、質問への受け答えとオウム返しだけで、俺は8番のミナミさんとカップルになったのだった!
普段のノリでいったら、こんなお上品な研究員の女性とカップルになることはなかっただろう。
カップルになったミナミさんと、会場近くの居酒屋で飲むことに。彼女が不思議そうに言う。
「なんか、変な感じですね。会ったばかりの方とふたりで飲むなんて」
「そうですね、ちょっと変な感じですね」
「山野くん、お酒は強いですか?」
「あまり強くないですね、ミナミさん、お酒は強いんですか?」
「私は結構いけるほうです」
と言いながら、いきなりワインを頼むミナミさんだが、俺はあまり強いほうではない。付き合っていたら確実に潰されるので、弱めのカクテルを頼んでカンパイ。
「ちょっと疲れましたね。あんなにせわしないと思わなかった」
「疲れましたね、けっこうせわしなかったですよね」
「けっこうあせってる人ばっかだったし、なんか少し怖かったかも」
「あせってる人ばっかりだったんですか?それは少し怖いですね」
「山野くんは若いし、落ち着いてるからそんなことないんだろうけど、30過ぎの人は割とみんなそうでしたよ」
オウム返しを続けていたからあれこれ質問できなかっただけのことだ。なのに落ち着いてることになるなんて。何が起こるかわからないものだ。
ミナミさんの焼物トークが始まった。
「千利休の〝泪〞はいつ一般公開されるんですかね」
「いつになるんでしょうねえ…」
「瀬戸黒とか、男性は好きじゃないですか? ああいう色合いの」
「そうですね、瀬戸黒みたいなのは男性好みかもしれません」
正直クソつまらない上にオウム返しするのもしんどくなってきている。知ったかぶりするのにも限界があるし。瀬戸黒っていったい何だよ?
「山野くん、今までの彼女はどんな人だったの?」
ああ、やっとこういう話題になってくれた。
「年下が多かったですね。それで疲れちゃって。ミナミさんは、今までの彼氏はどんな人でした?」
「あ…話さなきゃって思ってたんですけど、私、いままでお付き合いしたことがないんですよ」
26才で処女だと!
「家が厳しくて。お見合いで結婚しなさいみたいなことばかり言われてきて、イヤになって最近一人暮らしをはじめたんですよ」
「家が厳しいんですね」
「そうですね、私の自由はどこ? って感じなんですよ」
男に放っておかれるような容姿でもないし、どうやら本当に箱入りお嬢様なのかも。
なんとかして落としたいが、相手は26才処女だ。下ネタは絶対言わないだろうし、ボディタッチも距離が遠くて難しそうだ。
そんなことを考えながら1杯目を飲み干す。
時計を見ると、もう夜11時だ。パーティの開始時間がかなり遅かったからなぁ。このあとは部屋へ連れ込むのが正解か。
店を出て駅へと向かう。街路樹が並んでいて、肩を並べて歩いているだけでもいいムードだ。
処女だからこそ、このシチュエーションにグッとくるのでは?
「山野くん、今日はありがとうございました」
「こちらこそ、ありがとうございました」
…と言いながら、周囲をうかがう。あまり人もいないし、深夜のオフィス街は静まりかえっている。攻めに行く雰囲気としては申し分ない。いきなり手を握ってみた。
「えっ…」と、ミナミさんの口から小さく息が漏れる。手をつなぐだけでもこんなになるなんて、よっぽど経験がないのか。
「山野くん、こういうのはちょっと…」
「ちょっと?」
ちょっと…と言いながらも、手を離したりはしないミナミさん。手汗をすごいかいてるし。
「山野くん、ちょっと。人が見てるから…」
「ほんとだ。人が見てますね」
「見てますね、じゃないよ…」
耳まで真っ赤にしながら「人が見てる」というミナミさん。手をつないだぐらいでこの反応とは、なかなか興奮させてくれる。
これ以上、言葉はいらないだろう。タクシーを拾って彼女の部屋に直行するのみだ。
手をあげてタクシーを拾い、本日初めて、オウム返しの禁を破った。
「どうぞ、先に乗ってください」
「え?」
「送っていきますよ」
「いえ、いいです。電車あるので」
手を振り払い、彼女は小走りで駅へ向かっていった。
何がいけなかったんだろう。オウムがいきなり意思を持ったのが怖くなったのだろうか。